「これを、僕に?」
「うん。嫌じゃなければ、使ってほしいな」
「嫌なわけないさ。ありがとう…! どうしよう、僕こういうのはじめてだから、嬉しすぎて感動しちゃった」


沢多さんからプレゼントを貰えるだなんて、どれほど幸せ者なのだろう。
こんな綺麗な桜柄の栞なのだから、本に挟むのが勿体ないくらいだ。


「喜んでくれてホッとした。私ね、はやく渡したくてソワソワしてたんだ」
「大切にするよ! わあ…本当に嬉しいなあ!」


つい、ジッと栞を見つめてしまう。すると、庭先で勢いよく花火が噴き上がった。
5つほど設置された打上げ型の花火が夜を鮮やかに彩る。
まるで、思い出のひとコマのように。
光る煙が線を描く。
はしゃいでいるクラスメートの中に、僕も沢多さんもいた。

──きっと、未来は良い方に傾いている。





「東山くん、めっちゃ楽しかった! 企画してくれてありがとう! 文化祭の準備、頑張ろうね〜!」
「うっ、ううん、こちらこそ片付けまで手伝ってくれてありがとうね」

最後にみんなで線香花火をして、庭の掃除をしてお開きになる。
バケツの中には大量の花火が入っていて、運ぶのが大変だった。

皆がゾロゾロと帰っていくのを見送っていると、最後まで残ってくれていた沢多さんがゴミをまとめて持ってこちらまで歩いてくる。


「いいよ、僕がやるから」
「ううん、運ばせてよ。近くのゴミ捨て場、どこかな?」
「そこを左に行ったところだけど、1人じゃ危ないから」
「うーん、じゃあ君もついてきてくれる?」


わざとらしくクスリと笑ってくる沢多さんに、まんまと唆される。
道を案内しようと外に出ると、沢多さんがあとからついてきてくれた。


「外暗いけど、ひ、ひとりで帰れる? 駅まで、送って──」
「沢多」


僕が振り向くと同時。夜の静寂を割るように、精悍な声が聞こえてくる。
街灯の下には、加藤くんが立っていた。


「家まで送る」


ゴミ袋を持つ手が震えた理由はなんだったのか。

なんだこれ、胸の奥がひどく痛む。
プレゼントをもらって浮かれていた。
僕なんかが加藤くんと張り合えるわけがなかったのに、何を自惚れていたのだろう。

僕がどれほど沢多さんを救いたいと願っても、それをいとも簡単にやってのけられそうな人が目の前にいるとなるとぐうの音も出なかった。


「いいよ、そんなことをしてくれなくても」
「……んだよ、じゃあ東山に送ってもらおうってわけ?」
「だったら何? なんだっていいじゃん」
「よくねぇよ! 花火の時もずっと東山の隣にいやがって! 俺のことがそんなに嫌いかよ!」