清潔感のある文学男子という言葉は果たして褒め言葉であるのか。
恥ずかしくて沢多さんの顔を見られない。


「東山くんって、やっぱりすごいよね。こういうこと、誰でも提案はできないよ。嫌な顔もせずに家を貸してくれるし、それこそ見返りなんて求めてない。君は優しい人だと思う」
「……うっ、ほ、褒めすぎ、だよ」
「本当にそう思うの。私はね、君みたいにはできないから。いつも見返りばかり考えて、誰にでもいい顔をして生きてきた」



パチパチ……弾ける花火の勢いが徐々に弱くなっていく。
遠くから花火を持ちながら駆け回っている男子たちの声が聞こえてきた。


「私、いい子じゃないんだ。きっと、誰にも心を許さなかったのは私の方。本心を曝け出すことに恐怖心を抱いているのは、私の方なの」
「……沢多さん」


明るく弾け飛んでいた火の玉が消える。


「東山くーん、あれー? どこ行っちゃったのかな。一緒に花火やろうと思ったのに…」
「なんで東山?」
「だって、最近彼、よく喋るじゃん? 実際はどんな子なんだろうって気になってるんだよね。よく見ると顔整ってるし、悪くない?みたいな?」


女子の声が聞こえてくると、沢多さんがギュッと唇を結んだ。
気のせいかな? 今、僕の話題が上がったような…。


「──やっぱり、私って嫌な子だよね。どうして、東山くんみたいな前向きな考え方ができないんだろう」
「え?」
「君の良さを他の子に知られるのは面白くないって思ってる。わがままなんだよ、私」


沢多さん?
気になって見つめると、彼女は困ったように笑っている。


「瑛里香ー、写真とろー」
「オッケー。いいよー」
「あー、ダメだ、暗いから盛れないかも。…あれ、てか奈央ちゃんは?」
「さあ〜? 知らない。もういいから私らだけで撮っちゃおー」


弾ける手持ち花火を持っている集団が、カメラ片手に集まっている光景。
それをぼんやりと見つめる沢多さんは、その中に混ざってはいなかった。


──僕と沢多さんで、このまま2人ぼっちになる。
そうすることで沢多さんの心は本当に軽くなる?
沢多さんの心の闇の根本的な解決にはなるのだろうか?


「あっ、そうだ」


他のクラスメートの皆がいる中で、2人でこっそり縁側に腰掛ける。
ドキドキしていると、沢多さんがトートバッグの中を漁り始めた。


「はい、東山くん」
「……え?」


差し出されたものを凝視する。
綺麗にラッピングされているけれど、これはいったい。


「雑貨屋さんで見つけたの。東山くんに似合うなぁって思って」
「えっ、僕に? いいの?」
「うん、開けてみてよ」


人からプレゼントなんてはじめてもらった。しかも、こんな何でもない日に貰ってしまっていいのだろうか。

中身はなんだろう。
包装を綺麗に剥がして出てきたのは、


「……栞?」


桜柄の鮮やかな栞だった。