すごく残念そうにしている中野さんたちを見て、沢多さんがいないといけないだなんてやっぱり人気者なんだな、と当時の僕はただ感心していただけだった。

いてもいなくても変わらない僕とは大違いだと。
むしろ、僕と仲良くしているところを周りに見られるのが気まずいとも思ってしまっていた。

なんでお前なんかが沢多さんの近くにいるんだ、となじられてしまうかもしれない。それは怖い。だけれど、もうそんな情けないことはしない。
勇気を振り絞って顔を上げると、沢多さんは浮かない表情をしていた。

沢多さん……?


「あっ、加藤いいところに。今日の放課後、文化祭の準備が終わったらみんなで遊び行こうって言ってるんだけど、加藤も来るー?」


今度は加藤くんがズカズカと教室の中に入ってきた。
いつも一緒にいる男子メンバーを引き連れている彼に、中野さんが話しかける。


「へえ、それって沢多も来んの?」
「私は実行委員会があるから行けないんだ」
「ふーん。じゃあいいわ」
「ちょっ、はあ? 待ってよ、なにそれ面白くないっ!」


加藤くんはすぐに興味をなくしたように歩き出し、彼女たちをスルーする。
一方で、中野さんはひどく怒っているようだった。


──兎にも角にも、僕は傍観者でしかない。
関係ないこと。
縁遠いもの。
以前の僕はそうやって物語の世界に逃げていた。


「あっ、ああ、あのっ!」


けれど、このままじゃ、ダメな気がした。
ガタッと席から立ち上がって、震えながら声を出す。

教室の中が静まり返ると、中野さんも加藤くんも沢多さんも、皆が僕のことを見てきた。


心臓が飛び出そうだ。
怖い。怖い怖い、怖い怖い怖い。
何か、何か言わないと…!

緊張して声がうまくでない。
穴があったら入りたいと思うけれど、でも、と拳を握った。


「みっ、皆、放課後にやりたいことがあるだろうに、我慢してっ、ぶっ、文化祭の準備をしてくれてるからっ、ぼっ、僕からひとつ提案があるん、だけど、いいかなっ?」


──提案?
──東山くん、急にどうしたんだろ。

チラホラとそんな声が聞こえてくる。つい膝が震えてしまった。


「息抜きがてら、今週あたりに、花火……しないかなって。僕の家、田舎にあるから庭が広いんだ。そ、そのっ、季節外れかもしれないけど」


中野さんが苛々しているように見えた。
もしかすると、日々の文化祭の準備でストレスが溜まっていたりするのではないか、と解釈しての提案だった。

場違いだったのかもしれない。
的外れな提案だったのかもしれないとも思った。

俯いていたら「へえー、いいじゃん! やろやろ!」と声がかけられてハッとする。


「毎日文化祭のことを考えてて肩が凝ってたところだったんだよねぇー。東山くん、ナイスー」
「うちに余ってる手持ち花火あるわ」
「あれやりたい! 蛇花火!」
「クラス全員呼べるって、東山くん家ってどんだけ広いのーっ? 実はお坊っちゃんだったんだ」