「あっ、え、ごめん、なんか僕」
「こんなに頼もしい人、他にいないかも。君だけは、私の味方でいてくれてるみたい」


──どうしよう、泣かせてしまった。
冷や汗をかいたけれど、見た限りでは沢多さんは気分を害してはいないようで胸を撫で下ろす。


「今まで、私のことを本当の意味で好いてくれてる人なんていないんだって思ってたの」
「え?」
「東山くんからすると、私は人望の厚い人気者に見えてるのかな? きっと想像もつかないだろうけど、人ってね、裏ではどんなことを考えてるか分からないものなんだよ」
「裏……?」
「皆、ただいい顔をしてるだけ。状況が悪くなると、手のひらを返してすぐに──裏切る」


"裏切る?"


ふわり、ふわり、彼女の黒髪が揺れる。
まるで、その言葉だけが宙に浮いているような言い方をする。



「ねえ、君は──本当に私のことが好き?」



星灯りに照らされた彼女に目を奪われた。
僕たちしかいない静かな星空の下で彼女と見つめ合う。


「すっ……」
「うん」
「す、」


身体中に熱が回って、気恥ずかしくなって視線を逸らす。
けれど、ぐっと手のひらに力を込めてもう一度彼女を見る。少しも戯けたりもふざけてもいない真面目な瞳がそこにはあった。


「好き……です」


加藤くんのように男らしい人間だったらよかった。
そうすれば、きっと気の利く台詞のひとつでも思いつくだろうに。



「僕は、ぼ、く、はっ……沢多さんのことが、好きだっ!」


いざとなると頭が真っ白になってこれしか言えなかった。


「僕の気持ちに、嘘偽りはない…からっ! 沢多さんのことが、だっ、大好きだから! 僕だけは、ぜっ、絶対にっ、君の味方だからっ!」



熱い。顔から火が出そうだ。
以前の僕ではとてもじゃないけれど言えなかった台詞。



「疲れたら、またここに来ようよっ! 僕、墓地を通るのだって、平気さっ! 怖くないよっ!」
「東山くん……」
「それでっ、それでねっ、沢多さんの好きなものをもっと、たくさん、教えてよ! 僕、なんだって知りたいんだ!」



──だから、死神は彼女の魂を取らないで。
彼女にあんな決断をさせないで。

とにかく必死に言葉を並べると、沢多さんは目に涙を溜めて破顔した。



「嬉しい。──本当に」