「いい子をするのうんざりだっ!! 好きで八方美人をしてるわけじゃないのにっ、人間関係、ほんっと、めんどくさいっ!! 私に期待するふりをして、どうせ便利屋としか思ってないくせにっ!! みんなみんな、みんなみんなみんなみんな!! 自分勝手!! 上辺ばっかり、嘘ばっかり!! 私の話もちょっとは聞いてくれていいじゃない!! この世界の、バァァァァァァァァカッ!!」
息継ぎもないほどの感情の嵐。
はあはあと息を切らしている沢多さんは、その場にへたりとしゃがみ込んだ。
学校の模範生徒でもあるような沢多さんが、ここまで取り乱した様子を僕は見たことがなかった。
「あー……スッキリした」
「そ、それは何よりだよ」
「あははっ、東山くん超びっくりしてる」
「びっ、びっくりはしたけれど…、その、沢多さんが気持ちよくなれたのならよかったよ」
しゃがみ込んでいた沢多さんが顔を上げて笑っている。
友達ともうまくやっているように見える沢多さんなのに、何がそこまで彼女を追い詰めているのだろう。
僕はギュッと、唇を結んだ。
「さ、沢多さん……僕は、その、小学4年生の時に、クラスでひどく浮いたことがあったんだ」
自分のことを話すのは苦手だ。
特に楽しい思い出もなければ、内容もつまらないから。それに加えて要点をうまくまとめられない。聞いている相手がだんだんと面倒臭そうな表情を浮かべるものだから、伝えることへの若干の恐怖心がある。
それに加えて、聞いたって誰も得をしないと分かりきっているものを、誰が進んで話すのだろうか、と。
「僕、当時からほっ、本が好きで。作文発表会の時に好きな本についてを熱弁してしまったことがあったんだ。そ、そうしたら、"東山は変なヤツ"と距離を取られるようになってしまった。その時に僕は、ああ、喋らなきゃよかった。黙っていれば、傷つかなくて済んだのにってひどく閉鎖的になったんだ」
未だに怖いけれど、それでも僕は沢多さんと向き合いたい。
沢多さんのもとへ一歩を踏み出したいんだ。
「誰も友達がいないのは、悲しかった。1人ぼっちは、虚しい。心を通わせている人たちを見るとすごく羨ましいのに、僕はそっち側へは行けなかった」
「東山くん……君は」
「情けないけれど、ず、ずっとそんなことを思いながら今日まで生きているんだ。沢多さん、ぼっ、僕は、周りに興味がないわけでもなんでもなくて、つねに周囲に羨望の眼差しを向けている、かっ、格好悪い人間なんだよ!」
僕の悩みは彼女にとって些細なものであると思う。
けれど──きっと、同じなんだ。
社会というものは、当たり前のように生きにくくて、悩んだり、挫けたりしながらも、どうにか頑張ってみんな生きてるのかもしれない。それは、1人ではできないことだ。
僕は、沢多さんにとってのそういう人になりたい。
「だっ、だから、沢多さん、こんな格好悪い僕相手に、自分のことを誤魔化さなくていいっ。僕相手だったら、何も気にしなくていいんだ!」
顔が熱い。心臓が破裂しそうだ。
偉そうなことを言ってしまっていると分かっている。彼女の癇癪に触れるかもしれないと覚悟もした。
嫌われたくない、嫌われたくない、でも、と拳をまた強く握った。
俯いていた顔を上げて、ハッとする。
星がキラキラと輝く夜に、沢多さんは泣きそうな顔をして目を細めていたんだ。
「君はどこも……格好悪くなんてないじゃん」
息継ぎもないほどの感情の嵐。
はあはあと息を切らしている沢多さんは、その場にへたりとしゃがみ込んだ。
学校の模範生徒でもあるような沢多さんが、ここまで取り乱した様子を僕は見たことがなかった。
「あー……スッキリした」
「そ、それは何よりだよ」
「あははっ、東山くん超びっくりしてる」
「びっ、びっくりはしたけれど…、その、沢多さんが気持ちよくなれたのならよかったよ」
しゃがみ込んでいた沢多さんが顔を上げて笑っている。
友達ともうまくやっているように見える沢多さんなのに、何がそこまで彼女を追い詰めているのだろう。
僕はギュッと、唇を結んだ。
「さ、沢多さん……僕は、その、小学4年生の時に、クラスでひどく浮いたことがあったんだ」
自分のことを話すのは苦手だ。
特に楽しい思い出もなければ、内容もつまらないから。それに加えて要点をうまくまとめられない。聞いている相手がだんだんと面倒臭そうな表情を浮かべるものだから、伝えることへの若干の恐怖心がある。
それに加えて、聞いたって誰も得をしないと分かりきっているものを、誰が進んで話すのだろうか、と。
「僕、当時からほっ、本が好きで。作文発表会の時に好きな本についてを熱弁してしまったことがあったんだ。そ、そうしたら、"東山は変なヤツ"と距離を取られるようになってしまった。その時に僕は、ああ、喋らなきゃよかった。黙っていれば、傷つかなくて済んだのにってひどく閉鎖的になったんだ」
未だに怖いけれど、それでも僕は沢多さんと向き合いたい。
沢多さんのもとへ一歩を踏み出したいんだ。
「誰も友達がいないのは、悲しかった。1人ぼっちは、虚しい。心を通わせている人たちを見るとすごく羨ましいのに、僕はそっち側へは行けなかった」
「東山くん……君は」
「情けないけれど、ず、ずっとそんなことを思いながら今日まで生きているんだ。沢多さん、ぼっ、僕は、周りに興味がないわけでもなんでもなくて、つねに周囲に羨望の眼差しを向けている、かっ、格好悪い人間なんだよ!」
僕の悩みは彼女にとって些細なものであると思う。
けれど──きっと、同じなんだ。
社会というものは、当たり前のように生きにくくて、悩んだり、挫けたりしながらも、どうにか頑張ってみんな生きてるのかもしれない。それは、1人ではできないことだ。
僕は、沢多さんにとってのそういう人になりたい。
「だっ、だから、沢多さん、こんな格好悪い僕相手に、自分のことを誤魔化さなくていいっ。僕相手だったら、何も気にしなくていいんだ!」
顔が熱い。心臓が破裂しそうだ。
偉そうなことを言ってしまっていると分かっている。彼女の癇癪に触れるかもしれないと覚悟もした。
嫌われたくない、嫌われたくない、でも、と拳をまた強く握った。
俯いていた顔を上げて、ハッとする。
星がキラキラと輝く夜に、沢多さんは泣きそうな顔をして目を細めていたんだ。
「君はどこも……格好悪くなんてないじゃん」