沢多さんに連れられてたどり着いた場所は、2人で肝試しをしたあの墓地だった。
2度目だというのにもかかわらず、足がすくんだ。今にも何かが出てきそうな、ひんやりとした空気に鳥肌が立ってしまう。
沢多さんは飄々とした様子で石畳の道を進んでいくけれど、怖くはないのだろうか。
夜風にのって揺れている彼女の髪を眺める。
あの夜と変わらずに、沢多さんは木々が生い茂っている中へと進んでいった。
やがて開けた場所にある境内。古いお寺の天井は、一面の星が輝いている。
まるで心を奪われる。
再びこの景色を沢多さんと見ることができるだなんて、夢にも思わなかった。
北極星。夏の大三角。オリオン座はやはり、まだ見えない。君は驚くかもしれないけど、僕は、まったく同じ景色を以前、君と眺めたことがあるんだよ。
「ここに来るとね、自分の悩みなんてちっぽけなものだなあって思えるんだ」
顔を上げて星空を眺めている彼女は、仄悲しそうに目を細める。
何か言ってあげたいけれど、なんと話しかけていいのかが分からない。ぱくぱくと口を開きかけて閉じた。
「私以外誰もいない気がする。それでね、この一瞬だけは、この境内の外は私だけがいない世界になるの」
ひらりひらり、白いワンピースが揺れる。油断をすると黄泉の世界へと彼女が連れていかれそうな危うさがあった。
待って、やめてくれ。
違うよ。そんなことない。
悲しいことを考えなくていい。
僕がいるのに、とそう言いたいのになかなか声に出てきてくれない。喉のすぐそこまで出てきているのに、最後のひと声がつっかえてしまった。
「私ね、東山くんのことがずっと羨ましかったんだよ。クラスの皆がどんな話題で持ちきりになったとしても、君だけは、そんなの関係ないとばかりに本を読んでいた」
「それは、」
「君だけが1人だった。私は、違うから。1人になるのは、すごく怖い」
沢多さん。
沢多さん。
そんな顔をしないで。
君の笑顔が見たくて、僕はこの世界に戻ってきた。君のために勇気を出さないと、声を出さないと。
「……ぼ、僕がいるよ」
ギュッと拳を握る。彼女の宝石のような瞳がこちらに向いた。
「さっきも言ったけど、疲れたら、ムリをしなくて……いいんだと、思う。そ、そのっ…頼りないかもしれないけれど、僕…にだったら、叫びたいこともぶつけていいんだ」
とにかく必死だった。
何か伝えないといけないと思った。膝が震える。唇が震える。手のひらを握りすぎたのか、爪が食い込んで痛んだ。
彼女が死ぬことを考えないように。
悲しいことを考えないように。
「はは……、東山くんって、つくづく予想を裏切る人だよね」
沢多さんの色素の薄い瞳の中に僕が写っていた。
ここは君だけの世界じゃないよ。僕も、いるんだ。
「──じゃあ、お言葉に甘えて叫んでみようかな」
「え?」
ふうっ、と大きく息を吸った沢多さんが星空に向けて身体を開いた。
2度目だというのにもかかわらず、足がすくんだ。今にも何かが出てきそうな、ひんやりとした空気に鳥肌が立ってしまう。
沢多さんは飄々とした様子で石畳の道を進んでいくけれど、怖くはないのだろうか。
夜風にのって揺れている彼女の髪を眺める。
あの夜と変わらずに、沢多さんは木々が生い茂っている中へと進んでいった。
やがて開けた場所にある境内。古いお寺の天井は、一面の星が輝いている。
まるで心を奪われる。
再びこの景色を沢多さんと見ることができるだなんて、夢にも思わなかった。
北極星。夏の大三角。オリオン座はやはり、まだ見えない。君は驚くかもしれないけど、僕は、まったく同じ景色を以前、君と眺めたことがあるんだよ。
「ここに来るとね、自分の悩みなんてちっぽけなものだなあって思えるんだ」
顔を上げて星空を眺めている彼女は、仄悲しそうに目を細める。
何か言ってあげたいけれど、なんと話しかけていいのかが分からない。ぱくぱくと口を開きかけて閉じた。
「私以外誰もいない気がする。それでね、この一瞬だけは、この境内の外は私だけがいない世界になるの」
ひらりひらり、白いワンピースが揺れる。油断をすると黄泉の世界へと彼女が連れていかれそうな危うさがあった。
待って、やめてくれ。
違うよ。そんなことない。
悲しいことを考えなくていい。
僕がいるのに、とそう言いたいのになかなか声に出てきてくれない。喉のすぐそこまで出てきているのに、最後のひと声がつっかえてしまった。
「私ね、東山くんのことがずっと羨ましかったんだよ。クラスの皆がどんな話題で持ちきりになったとしても、君だけは、そんなの関係ないとばかりに本を読んでいた」
「それは、」
「君だけが1人だった。私は、違うから。1人になるのは、すごく怖い」
沢多さん。
沢多さん。
そんな顔をしないで。
君の笑顔が見たくて、僕はこの世界に戻ってきた。君のために勇気を出さないと、声を出さないと。
「……ぼ、僕がいるよ」
ギュッと拳を握る。彼女の宝石のような瞳がこちらに向いた。
「さっきも言ったけど、疲れたら、ムリをしなくて……いいんだと、思う。そ、そのっ…頼りないかもしれないけれど、僕…にだったら、叫びたいこともぶつけていいんだ」
とにかく必死だった。
何か伝えないといけないと思った。膝が震える。唇が震える。手のひらを握りすぎたのか、爪が食い込んで痛んだ。
彼女が死ぬことを考えないように。
悲しいことを考えないように。
「はは……、東山くんって、つくづく予想を裏切る人だよね」
沢多さんの色素の薄い瞳の中に僕が写っていた。
ここは君だけの世界じゃないよ。僕も、いるんだ。
「──じゃあ、お言葉に甘えて叫んでみようかな」
「え?」
ふうっ、と大きく息を吸った沢多さんが星空に向けて身体を開いた。