「やっほー。お待たせ東山くん」
「こ、こんばんは」


そうしてあっという間に土曜日の夜7時になった。
当時の僕は、かなりドギマギしていたのをよく覚えているが、今日も変わらずに落ち着かなかった。
セーラー服じゃない姿を見るのははじめてじゃないのに、駅前の改札で待っていた僕の前に、真っ白いワンピース姿の沢多さんが現れると、心臓が飛び跳ねそうになった。

あの日と同じ格好だ。
お化け役をするからと、沢多さんははりきって白いワンピースを着てきたと言っていた。


「ねえ、東山くん。これ、どうかな?」
「ど、どうって……」


クルクルと僕の前で一回転をする沢多さん。
こういう時、気の利いた台詞でも思いつけばよいのだが。


「すごく……似合ってると思います」


結局、前回と同じ感想を述べてしまった。


「本当?」
「う、うん、さ、爽やかで、すっ、すごくお洒落だね」


慣れていない僕を他所に彼女はマイペースである。
独特なテンポで話す沢多さんに簡単に呑み込まれる。
というか、お気に入りの場所って絶対あの墓地だよな。僕はまた肝試しをするハメになるのか?


「さては東山くん、さりげなく褒め上手ですな?」
「えっ?」
「滅多に"お洒落"なんて言わなそうなのに。口下手な子なんだろうなって思ってた分、ちょっと意外かも」
「いったい僕にどんなイメージを抱いていたんだ……」
「本の虫? 誰とも打ち解けようとしない。自分の世界に入るのが好きな人なのかなって、実は思ってたかも」


くるり、と沢多さんが身を翻す。
歩き始める彼女を慌てて追いかけた。
──デジャヴ。
まったく同じシチュエーションで、僕は彼女と同じ会話をした。


「東山くんはさ、1人でいるのは怖くないの?」


街中の喧騒の中を2人で歩く。
飲食店から出てきた大人たちがほろ酔い気味に道を歩いてきた。

まただ。
また、沢多さんが影のある内容を口にした。
当時の僕はただ聞き流していただけだったなんて。馬鹿だった。愚かすぎた。なんて無慈悲な態度を取っていたのだろう。
今はこれほどまでに、何も聞かなかったことを後悔してる。


「怖くないわけないんだ。でも、かといって人に歩み寄る勇気も持てない臆病者なだけで…。沢多さんは?」
「私は……」
「うん」
「すごく怖い、かな。自分がどう思われてるのかを気にするし、みんなが持ってる私のイメージを壊したくない。だから完璧な自分を演じ続けてるだけだって言ったら、東山くんは信じてくれる?」


沢多さんがほんのりと物憂げな表情を浮かべた。
当時の僕は、そんなわけないだろうと受け流していた。僕にとってはなんでも完璧にできる沢多さんであったのだ。
だけれども、もし、この時すでにSOSを向けていてくれていたのだとしたら、僕は彼女にとても酷いことをしてしまっていた。


あの時、言えなかった。
今度こそ、小さな勇気を振り絞る。


「信じるよ」


だから、沢多さんがどんな人なのか、教えてほしい。
加藤くんと比べると何倍も頼りないけれど、釣り合っているのかを不安に思うけれど、それでも、頑張ってみたいんだ。