文化祭の準備は着々と進んでいった。
以前と同じく、内装設備の係になった僕は沢多さんとともに資材調達の計画を立てていた。

ホラーテイストな劇場型脱出ゲームということで、メインとなって企画を練っているチームは張り切っているようだ。
今のところは、せっかく学校の教室で行うということなので、夜の廃学校を舞台にセッティングが進んでいった。

となると、大方は教室にあるものでまかなえそうだ。衣装やホラーグッズに関しては調達が必要になってきそうだけれど、そういうものってどこに売っているんだろう。


「東山くん、ちょっといいー?」


──僕だけが2回目の文化祭の準備をしていることを誰も知らない。
ホストクラブの内装ってどうなっているのかが分からなくて、携帯で必死に検索しながら内装製作をしたものだ。

クラスの総投票数40票のうちの37票を獲得して決定したホストクラブ。
今思えば、満了一致するくらいに皆がやりたがっていたようには思えなかった。
どうして、不思議に思ったことをそのまま放置したのだろう。どうして、見ないふりをしてしまったのだろう。
実行委員の役目を担ったことに鬱々としているばかりで、なんて情けない。僕はあの時に、"なにか可笑しい"と勇気を出して抗議をすればよかったんだ。


「予算なんだけれど、見てみてくれる?」
「そっか……、照明を結構使うんだね」
「そうなの。やっぱり演出が大事だから、それでお客さん集めたいな〜みたいな?」
「うっうん、いいと思うよ。あとは最後に先生に確認してもらおうか」


企画チームの子から予算の見積書をもらって教室を出る。
僕は果たして今度こそクラスの輪の中に溶け込めているのだろうか。
相変わらずクラスメートとの会話はスムーズに行かないけれど、前よりも自信が持てているような気がする。


「沢多、おいちょっと待てよ」


職員室へと向かっている途中、窓の外から気怠そうな男子の声が聞こえてきた。
中庭を見ると、派手な風貌をした加藤くんと──、セーラー服を靡かせている沢多さんがいてとっさに壁際に身を寄せてしまった。

前が空いている学ランのジャケット。ワイシャツの中には赤いTシャツを着ている。
腰パンがトレードマークの加藤くんは、少し苛立っているように頭を掻いていた。

クラスの中心グループに属している沢多さんと加藤くんが一緒にいるところは何も可笑しくない。
けれど、なんだか胸がざわついた。どうしてだろう。美男美女でよく映えているじゃないか。それを見て、僕の胸はどうしてチクリと痛むんだ?


「何?」
「何って、沢多お前、東山のことどうしてんの」
「東山くん? 仲良くしてるけど、それが?」
「告白されただろ。仲良くしてるって、まさか付き合ってるとか言わねぇよな」


──つ、付き合っている!?
ガタッと膝から崩れ落ちた。