何故か、クラスの皆の話題が僕になって混乱した。
全身から変な汗が沸き出してきてしまい、慌ててハンカチで額を拭う。


「んーでもさ、どうしようね、食べ物屋さんって他のクラスもやるよね?」
「被るのはやだよねー。飲食ってあれだよね、衛生検査とか必要だよね?」
「あー。あれ2年の時にやったけど、結構大変だった印象ある」
「メイド喫茶は4組がやるかもって言ってたよー」
「マジか。4組可愛い子多いもんなあ。衣装作るのも大変そうだよね」
「俺的にはさっき東山が言ってた、脱出ゲームとホラーを混ぜたやつはいいなって思うんだけど。結構あるくね? アニメ絡めたやつとか」
「俺行ったことあるけど割と楽しかったわ。劇場系にすれば、細かいセットを作らなくてもいいかもしれない」
「へえ〜。そういうの考えるのは男子が得意そうだよねー」
「はいっ! 女子からの意見! 光るカラーリングを受付で配布したらいいんじゃないかなって思う! 消えちゃうかもしれないけど、後夜祭でもおそろでつけたらかわいいかも!」
「えー、それいいっ! インスタ映えしそう!」
「それつけて気になる人と一緒に入ったらなんかいい感じしない? 暗いしぃー、ドキドキッみたいなぁ? あわよくばくっついたりして! どう? 瑛里香」


再び皆が話し合いをはじめると、そのうちの1人が中野さんに話しかけた。
頑なにホストクラブがやりたいと言っていた中野さんだけど、彼女の意見の裏側にはどんな意図が込められていたのか。

しばらく黙り込んでいた彼女は、少し考えるそぶりを見せると「ふーん……、それはアリかもね」とぼやいた。


「だよねぇー! あたし1組の山本と一緒にやりたいかも。自分のクラスの出し物だけどっ」
「劇場系?にすると当日のスタッフって何人くらい必要なのかな? そんなにいらなそうじゃない? 当日は皆、他のところも回りたいだろうし、数人ずつの当番制にしたらいいかもねー」



あれ?
中野さんや他のクラスの皆は、別にホストクラブじゃなくてもよかったのか?
37票も獲得したのだから、ホストクラブがやりたいのだと思ったのに。
なんて、ポカンとしてしまった。




「──じゃっ、じゃあ、多数決をした結果、ホラー脱出ゲームに決定と、なっ、なりました。皆さん、たくさん考えてくださって、ありがとうございました」


他にも"美女美男喫茶"や"なんでも縁日"などの案が出たけれど、その得票率は圧倒的だった。

僕もびっくりだった。
思いつきで言っただけだったんだけれど、これほど盛り上がるとは検討もしなかったんだ。
結果的には、お化け屋敷とはちょっとズレたものに決定してしまったが、これでよかったのか?

ドキドキしながら沢多さんを見ると、その表情は明るかった。
平気? 大丈夫?
"どうでもいい"だなんて思わない?

太陽の光を浴びている彼女の瞳がこちらに向く。ゆっくりと唇を開くと、口パクで「あ・り・が・と」と伝えてくれたのだった。





「──東山くん、今日すごかったよね!」
「えっ!?」

放課後、文化祭実行委員会の集まりのあとに廊下を歩いていたら、沢多さんが急に興奮気味に声を上げるのだからびっくりした。

以前の僕と違うのは、彼女の隣を歩いていることだ。
正直まだぜんぜん緊張するし、周りの視線が気になって落ち着かないけれど、僕の場合は多分、こういうところから変えていかないといけないから。


「東山くんの意見、説得力があった!」
「そっ、そうかな。出過ぎたことを言ってしまったとヒヤヒヤしてたよ」
「そんなことないよ。でも、ほんとすごいね。結構勇気いると思うんだ、ああいうのって。もしかしたら馬鹿にされたり、非難されるかもしれないのに」
「いや……怖くて仕方がなかったさ。それに、僕が言えたのは、その…」


僕だけの力じゃない。
沢多さんのために、僕も変わらないといけないと思っているからだ。
僕の原動力はつまるところ沢多さんにあるんだよ。

あの時、君に手を差し伸べることができなかったことを猛烈に後悔してる。
もう死にたいなんて思ってほしくない。

沢多さんの心を助けたいと思うからなんだよ、とは言えなかったけれど、たとえばこの瞬間だって、またこうやって沢多さんと一緒にいられるのが夢みたいなんだ。
黒猫が起こしてくれた奇跡を無駄にしたくない。