「……ありがとうって言われるのは、なんかいいね」
沢多さんはそのまま目を細めると、「そんなことを言ってくれるのは君くらいかも」と小さく呟いた。
「委員長キャラっていうのかな。私にはそういうのがあるみたいで、皆から推薦されてクラスのまとめ役割を担うことがよくあるんだけど、思えば、あんまり感謝されることはなかったかなあって」
「ぼ、僕は、勇気がなくてずっと今まで言えなかったけど、いっ、いつもクラスをまとめてる沢多さん、すごいなあって思ってたよ! 大変なこともあるだろうに、いつもしっかり引き受ける。僕じゃとてもじゃないけれど、できないことだよ!」
沢多さんは自分のことをどう思っているのかは分からない。
だけれど、僕がどう感じているのかをせめて伝えてあげたいと思う。
胸がバクバクと暴れてしょうがない。
これまで僕がどれだけ受け身だったのかを思い知る。言葉にするのってこんなに緊張するんだ。
「あはは、すごい褒めるじゃん」
「へっ、変かな?」
「変じゃないよ。びっくりしたけど、すごく嬉しい。それに私もね、東山くんって人前に出るのが苦手なんだろうに、自分から実行委員に立候補してて、勇気振り絞ったんだなあ、すごいなあって思ってたから」
──"嬉しい"。
そう言って彼女が笑っている。
僕が大好きな君のひだまりのような笑顔。
それを見ただけでまた目に涙が溜まりそうになった。
「なんかこっちも勇気出た。ありがとう、東山くん」
好きだ。
大好きだ。
ずっとこの笑顔を見ていたい。
下手かもしれないけれど、分かりにくいかもしれないけど、いっぱい伝えるから。
君のことを守れるような人間になるから。
──だから、自ら死ぬなんて悲しすぎる選択はしないでくれ。
◆
20分になったのを確認して、クラスのメンバーから意見を聴取しはじめる。
出てくる案といえば"縁日""ハンバーガー屋さん""アクアリウム""お化け屋敷""脱出ゲーム""ホストクラブ""メイド喫茶"等々。
これは以前の世界と同じだった。
沢多さんはお化け屋敷がやりたいと言っていたけれど、例えば、多数決をとらずに一方的にお化け屋敷に決定させたとしても、それはそれで彼女にとっては不本意な結果に終わってしまうような気がする。
それに、ひとつ気になっていたことがある。文化祭の準備をしていた時に、彼女はこんなもの"どうでもいい"と自暴自棄な発言をしていたのだ。
よほどホストクラブをやりたくはなかったのか。はたまた、何が何でもお化け屋敷がやりたかっただけなのか。
沢多さんはそんな我儘な人のようには思えない。発言の理由は、もっと別のところにあるのだろうか。
「じゃあ、人気投票で出し物を決めようと思うんだけど異議がある人?」
結局、話し合いの間は主に沢多さんが仕切っていた。
以前の僕といえば彼女の隣にただいるだけで、無能ぶりが露呈してしまった。
だから今回こそは良いところを見せようと思っていたのだけれど、出てくる言葉は「あっ」とか「うっ」とか締まりの悪いものばかりで。
「異議なーし」
多数決の確認を取ると、前回と同じようにチラホラと回答が返ってくる。
けれど、たしかあの時は1人だけ良い顔をしていなかった人物がいた。
「えー。でもさあ、私どうしてもホスクラがやりたいんだけど」
そうだ、中野さんだ。
「なんで中野の希望通りに進めないといけねぇんだよ」
「だってさあ、絶対ホスクラがいいじゃん。きっと加藤も似合うだろうし。奈央ちゃーん、おねがーい」
沢多さんはそのまま目を細めると、「そんなことを言ってくれるのは君くらいかも」と小さく呟いた。
「委員長キャラっていうのかな。私にはそういうのがあるみたいで、皆から推薦されてクラスのまとめ役割を担うことがよくあるんだけど、思えば、あんまり感謝されることはなかったかなあって」
「ぼ、僕は、勇気がなくてずっと今まで言えなかったけど、いっ、いつもクラスをまとめてる沢多さん、すごいなあって思ってたよ! 大変なこともあるだろうに、いつもしっかり引き受ける。僕じゃとてもじゃないけれど、できないことだよ!」
沢多さんは自分のことをどう思っているのかは分からない。
だけれど、僕がどう感じているのかをせめて伝えてあげたいと思う。
胸がバクバクと暴れてしょうがない。
これまで僕がどれだけ受け身だったのかを思い知る。言葉にするのってこんなに緊張するんだ。
「あはは、すごい褒めるじゃん」
「へっ、変かな?」
「変じゃないよ。びっくりしたけど、すごく嬉しい。それに私もね、東山くんって人前に出るのが苦手なんだろうに、自分から実行委員に立候補してて、勇気振り絞ったんだなあ、すごいなあって思ってたから」
──"嬉しい"。
そう言って彼女が笑っている。
僕が大好きな君のひだまりのような笑顔。
それを見ただけでまた目に涙が溜まりそうになった。
「なんかこっちも勇気出た。ありがとう、東山くん」
好きだ。
大好きだ。
ずっとこの笑顔を見ていたい。
下手かもしれないけれど、分かりにくいかもしれないけど、いっぱい伝えるから。
君のことを守れるような人間になるから。
──だから、自ら死ぬなんて悲しすぎる選択はしないでくれ。
◆
20分になったのを確認して、クラスのメンバーから意見を聴取しはじめる。
出てくる案といえば"縁日""ハンバーガー屋さん""アクアリウム""お化け屋敷""脱出ゲーム""ホストクラブ""メイド喫茶"等々。
これは以前の世界と同じだった。
沢多さんはお化け屋敷がやりたいと言っていたけれど、例えば、多数決をとらずに一方的にお化け屋敷に決定させたとしても、それはそれで彼女にとっては不本意な結果に終わってしまうような気がする。
それに、ひとつ気になっていたことがある。文化祭の準備をしていた時に、彼女はこんなもの"どうでもいい"と自暴自棄な発言をしていたのだ。
よほどホストクラブをやりたくはなかったのか。はたまた、何が何でもお化け屋敷がやりたかっただけなのか。
沢多さんはそんな我儘な人のようには思えない。発言の理由は、もっと別のところにあるのだろうか。
「じゃあ、人気投票で出し物を決めようと思うんだけど異議がある人?」
結局、話し合いの間は主に沢多さんが仕切っていた。
以前の僕といえば彼女の隣にただいるだけで、無能ぶりが露呈してしまった。
だから今回こそは良いところを見せようと思っていたのだけれど、出てくる言葉は「あっ」とか「うっ」とか締まりの悪いものばかりで。
「異議なーし」
多数決の確認を取ると、前回と同じようにチラホラと回答が返ってくる。
けれど、たしかあの時は1人だけ良い顔をしていなかった人物がいた。
「えー。でもさあ、私どうしてもホスクラがやりたいんだけど」
そうだ、中野さんだ。
「なんで中野の希望通りに進めないといけねぇんだよ」
「だってさあ、絶対ホスクラがいいじゃん。きっと加藤も似合うだろうし。奈央ちゃーん、おねがーい」