沢多さんは、この時から僕のことを面白い人だと言ってきた。
そもそもの話、まともに会話をしたことのある同級生は沢多さんくらいだったから僕が他人からどう見えるだとか、そんなことを聞く機会はそうそうなかったんだ。

だから決してそのようなことはないと鵜呑みにはしなかったけれども、それってどうだったのだろう。
少なくとも沢多さんにとっての僕は、気さくに喋りやすい存在だったのだろうか。


「ありがとう沢多さん」
「……え?」
「僕、口下手だし流行りにも疎いから、ろくにクラスメートとも会話もしたことがなくて。だから、はじめてそういう風に言ってもらえた。嬉しいよ」


これからは、ちゃんと伝えよう。
下手くそでもいいから、何回も言い直したっていいから、怖いと思わないで思ったことを口にしよう。
僕はそれができなくて後悔をした。

分け隔てなく話しかけてくれてありがとう。
前向きになれる言葉をかけてくれてありがとう。
そうだ、僕は沢多さんにもっともっと伝えたいことがある。

僕はこれまで、"できなかったらどうしよう""失敗したらどうしよう""気持ち悪いと思われたらどうしよう""どうせうまくいかないと決まっている"と、そればかりを先に考えて、行動することから逃げてしまっていた。
自分を守るために人と距離を置くけれど、結局、たくさんの人に囲まれている沢多さんのような人を見るとすごいなあ、いいなあ、と憧れを抱いていたのだ。

卑屈になるばかりでいつまでも変わろうとはしなかった、情けない僕ではいたくない。


「僕も、その、沢多さんのこと、気さくで楽しい人だなって、思ってます……」


以前の世界で過ごしてきた君との時間を僕は知っている。だけど、この世界にいる沢多さんにとっては、僕と会話をするのは今日がほぼはじめてな具合だ。
急に何を言うのかと思われたかもしれない。
というか、いきなり告白までかましてしまったものだから、いよいよ訳が分からなくなっているだろう。

とにかく、マイナスな気持ちになってほしくない。
今も鬱々とした気持ちがあるのであれば、僕の言葉で君の心を軽くしたいと思うから。

沢多さんを見る。まさか面と向かってそんなことを言われるとは思ってもいなかったのだろう。


「ああっ……いきなりごめんね。えっと、あの、僕、勢いあまって立候補しちゃったけど内心不安なところもあったから、沢多さんが手を挙げてくれてホッとしたっていうか、ああっ…えっと、えっと、とにかく、その、一緒に実行委員をするのが沢多さんで、とても嬉しいんだ! だから──…ありがとうね」


言いたいことがめちゃくちゃだ。
そしてすごく恥ずかしい。

クラスの催し物の話題でガヤガヤと盛り上がっている教室で、僕と沢多さんの視線が交わる。

"ありがとう"
そういうと、彼女の瞳が少しだけ大きくなった。