「ね。それで私、お化け役がやりたいなって思ってるんだー」


ポツポツと漏らす内容は、前の世界でも聞いたものと同じだ。

当時の僕は、へえそうなんだと受け入れることしかしなかった。
どうして?なんで?と踏み込むことはしなかったんだ。
それを今は猛烈に後悔している。


「うーらーめーしーやーって、みんなのこと驚かすの」
「沢多さんは、どうしてお化け役がやりたいの?」

ほんの少し前まで、僕は本の中の文字だけを目で追っていたような人間だった。
高校3年目にしてようやくまともにできた、クラスメートとの会話。


「なんでって、んー。スカッとするじゃん?」
「スカッと……かあ」
「尻もちついて皆が震えて絶叫してるところ、見たいなーなんて」


ふわり、あの時と同じぬるい風が吹き付けてくる。
窓の外に広がっている積乱雲。
人形のような彼女の横顔を僕は以前も見たことがあった。

彼女は結局、お化け屋敷をすることができなくてどう思ったのかな。
そういえば、クラスの投票でホストクラブとお化け屋敷であんなに票が割れてしまったのはどうしてだったのだろう。


「はは、絶叫って……」
「わりと本気なんだけどな」
「でもいいね。楽しそう」
「でしょ!」
「沢多さんでもスカッとしたいことかあるなんて、意外だな」
「そうかな。普通にあるよ。例えばね、テスト前はストレスが溜まるでしょ? 大会の前は緊張するでしょ? 受験勉強しないといけないな、とかいろいろ」
「僕と同じだ」
「そうなの、同じなの。東山くんってずっと本ばかり読んでる人なのかと思ったけれど、なんか面白い人なんだね」