「さっそく催し物を何にするか決めようと思うから、20分まで各自考えてみてくださーい」


それに比べて沢多さんは通常運転だった。
口下手な僕とは違ってテキパキと司会進行をしている。
これでは、結果的に何も変わっていないのではないかというくらいには、僕が過去に見てきたとおりに進んでしまっていた。


「東山くん、板書頼める?」
「あっ……うん。分かった」
「ありがとう。助かる」


チョークを1本手に取る。
──ああ、これでは本当に何もかも一緒だな。

ここにいるのはなんでもそつなくこなす完璧な沢多さんだ。
覚えているかぎりではこの時の僕は、クラスの決めごとをただ傍観して、決定事項の板書をしているだけだった。

何かしないと。
僕も、何か何か何か……。


「東山くんは文化祭、何したい?」
「えっ?」

考えを必死に巡らせていたら、急に沢多さんが声をかけてきた。
びっくりして肩を震わせてしまう。

──というか、人前でいきなり告白をされたんだ。
むしろ気持ち悪がっているかもしれない、と唇を噛んだが、沢多さんは僕が思っているような表情は浮かべていなかった。


「あの、僕」
「ん?」
「ごめん、さっき急に……その、好きだ、なんて言っちゃったから」
「あ、ああ……あはは。あれね、びっくりしちゃった」
「皆がいる前で、迷惑だったよね。ごめん」
「なんで謝るの? びっくりしたけど、嬉しかったのに」


──嬉しい?

予想もしていない返しだった。

気持ち悪い、ではなく嬉しい?
パチパチと瞬きをする僕の前で、沢多さんは笑っていた。
本気にしていない?
それともこういうのは慣れているのかな。


「皆がいる前で告白だなんて、ちょっとロマンチックで本当は憧れてたの。実際にされるのは、恥ずかしかったけど」
「……ロマンチック」
「東山くんって思いがけず大胆な人なんだね」


教卓で頬杖をついている沢多さんは、クスリと笑って目じりを下げた。
一気に顔が熱くなる。
思えば、女子に告白なんてしたことはないのだ。
このあとってどうするんだ?
好きだと伝えたら、あとは何をすればいいのかも検討がつかない。


「あっ、えっと、ああああ、あのっ、一応、言っておくけどさっきのは冗談じゃないというか、あっ、でも、だからどうってわけでもなくて、できればその……僕と友達になっていただけると嬉しい、です」


しどろもどろに口を開くと、沢多さんは眉を下げて僕を見ている。


「うん、もちろん。私も東山くんがどんな人なのか、もっともっと知りたいな」


──う、わあ。
心臓が暴れて苦しい。
なによりも沢多さんが笑っていることが嬉しい。
勇気を出してみてよかった。
行動してみてはじめて、彼女が嫌がってはいないということが分かったのだ。


「それでね、クラスの出し物の話なんだけど、東山くんは何がやりたい?」


もうすでに泣きそうになりながらもなんとか堪えた。
すると、沢多さんは前の世界と同じ内容を質問してきたのだ。


あの時──沢多さんはどうしてお化け屋敷がやりたかったんだろう。


「私はね──」
「お化け屋敷が、やりたいかな」
「……え? 私もそれがやりたいって思ってた! 奇遇だね東山くん」
「あ、う、うん。そうだね、びっくりだよ」


本当は君が何をやりたいのかを知っていたとは到底言えなかったけれど。