めちゃくちゃ笑われている。
これでは、僕が皆の笑いものになっているだけではないのか?
結果的に沢多さんにも迷惑をかけることになってしまったし、何も変わっていないのではないか。

チクチクと刺さるような視線は、何も行動をしていなければわざわざ受けなくて済んだものだ。
過去の僕は、そんな風に自分だけを守って生きてきたことを後悔した。
昨日と何も変わらない明日がずっと続く世界を望んでいたんだ。

あえて1人ぼっちになって殻に閉じこもっているだけの弱虫な僕。
何もできなかった、とただ嘆くのはもう懲り懲りだ。

痛くても、苦しくても、怖くても、一歩踏み込まないと、変わるものも変わらない。
そこにはきっと、これまでの僕が見えなかったものがあるはずだと思った。


「こらー、お前たちうるさいぞー。せっかく東山くんが立候補してくれたんだから、感謝をしたらどうなんだ」
「……はぁーい」
「じゃあ、もう1名だが……誰かやりたい子はいるかな。いなかったら公平な手段で決めるしかないなあ」


先生が周囲を見回して立候補者を募るけれど、それもそうだ。
僕と一緒に実行委員をやりたいと思う人なんていないだろう。
ただ空回ってしまっただけだったのかも、と肩を落としていたら、目の前に座っている沢多さんの右手がすう、と伸びていったのが見えた。

──え。


「おお、沢多さん! やってくれるのかな?」
「はい。よろしくお願いします」


え。

なんでだ?
なんで、沢多さんが手を挙げてくれた?

何度も瞬きをして彼女を凝視してしまう。以前は彼女から実行委員の立候補をすることはなかったはずだ。
それなのに、何故──。


「どういうこと? 公開告白をしてきた東山くんと実行委員やるのかな?」
「いやいや、責任感が強い沢多さんだし、それは関係ないんじゃないの」
「だよねぇ〜。なんかさっきの東山くんの様子変だったしねぇ。相手にはしないよね、普通に」


教室の中が明らかにざわついている。

──本当にいいの?
沢多さんの気持ちを考えずに一方的に好きだ、と伝えてしまったことが冷やかしの対象になってしまったようだ。
嫌な思いをさせてしまったのかもしれないと気を揉んでいたけれど、これはどういうことなのだろう。


「他に希望者がいないようだったら、東山くんと沢多さんにお願いしようと思うが、それで構わないな?」


ジッと沢多さんの見つめる。
風にのって艶やかな黒髪が揺れているだけで、表情は確認できなかった。

けれど、僕の行動によって過去に起きていたはずの出来事が塗り替えられている。
これが良いのか悪いのかは分からない。

僕は、彼女の心の闇を作り上げた原因が何であったのかを知りたい。
知るためには、これまでに自分から踏み込むことができなかった場所まで行かないと。


「実行委員を、させていただきます、東山、若葉です。よろしく、お願いします」


──決心したはずなのに、やはり人前に立つことは慣れない。
視線が右往左往するし、緊張で口がうまく回らない。胸がドキドキする。

先生に代わって教壇に立った僕と沢多さんは、皆の前で自己紹介をする。
苦手意識のあるものを克服しようとするのはこんなにも大変なんだ。
皆の視線がチクチクと刺さる感覚。
喋りたい内容は浮かんでいるのにうまく口に出てきてくれない。

だけど、ギュッと拳を握った。