「キャンプファイヤー楽しみぃー」
「なんか、人気ある人は一緒に見る予約がもう入ってるらしいよ」
「マジぃ? 佐藤くん誰かと約束してるかなぁ。つーか無理ぃ、恥ずすぎて誘えないって」


16:00になって一般公開が終わると、展示物の撤去作業が行われた。

この日のためにあんなに時間をかけて作り上げたというのに、壊されるのはあっという間だ。完成した時に妙な達成感を抱いていた分、だんだんともとの教室に戻っていくことに名残惜しく思う。

僕は大きなビニール袋を持ちながら、床に落ちている段ボール類を黙々と拾い上げた。
クラスメートたちの話題といえば、このあと行われる後夜祭のキャンプファイヤーで持ちきりだった。

そして心なしか皆、ソワソワして落ち着かないように見える。
あちこちに視線を彷徨わせて、声をかけられるのを待っているようにも見受けられる。


いずれにせよ、僕には無縁なことだ。
浮き足立っているクラスメートたちを横目に、黒板の掃除をしている沢多さんへと目を向けた。


「沢多さん、これはどこに持っていけばいい?」
「それは粗大ゴミに回さないといけないから、下のゴミ置き場にお願い」
「おっけー。了解」
「ありがとう。あ、村上さん、そのガムテープこっちに回してもらえる?」
「はーい」


沢多さんは例のごとく人に囲まれていた。
1人で黙々と片付けをしている僕とは大違いだ。

皆から頼られるような素晴らしい人。
だから、到底彼女を誘える気合いもない。
実行委員の仕事があることを言い訳にして、情けない自分を正当化する。

だってそうなのだ。
実際、僕と一緒にいたところで沢多さんは何も楽しくないじゃないか。



「奈央ちゃん、ちょっといいー?」



慌てて彼女から視線を逸らす。
すると、廊下から中野さんが沢多さんの名前を呼んだようだ。


「女子メンで写真撮ろうって話しててぇ、中庭行こぉー」


クラスの派手グループに属している中野さんはよく目立つ存在だ。
本当に仲良しなんだなあ、と思っていたけれど、沢多さんの表情は……あれ?


「今じゃないといけないのかな」
「うん。決まってるじゃん。だってさっき撮れなかったし」
「あれは実行委員の仕事があったからしょうがな──」
「でもさー、奈央ちゃんいなくてクソつまんなかったんだよね、加藤も来ないしさ。だから、このあと付き合ってほしいの」
「はは……、でも、皆で片付けしないといけないよ」
「そんなの奈央ちゃんくらい抜けても大丈夫だよ。ねー? 皆ー?」


どことなく、違和感があるような。
少なくとも僕が見ている笑顔の沢多さんではなかった。


「う、うん……」
「沢多さんいなくても私たちだけでできるし、大丈夫だよ」


女子たちはお互いの顔を見合わせて、そんな中野さんにぎこちなく頷く。
誰も沢多さんと目を合わせることはなかった。中野さんの表情をチラチラと確認しながら、片付けを再開させてしまう。

こんなにも全員の意見が揃うことがあるのかというほどだった。

皆から頼られる沢多さん。
責任感のある沢多さん。
人気者な沢多さん。
彼女がリーダーシップをとってくれていたからスムーズに片付けが進んでいたのではなかったのか?


──と、思ったけれど、


「……そっか」


ちょっとそれは考えすぎかもしれない。
沢多さんは中野さんと仲がいいから、ただ気を利かせてくれていただけだろう。

彼女は周りを見回して小さく笑った。
いそいそと片付けを再開する皆の中に、僕もいる。


教室を出て行くその一瞬、沢多さんが僕を見た。
宝石のような瞳が、大きく揺れていた。