ニシシと笑う沢多さん。
本当によかったのかな?と思いつつも、僕は内心嬉しかった。
沢多さんと会話ができる。
隣にいる。
彼女の瞳に僕が映るとドキドキする。
「ずっと君が読んでるあの分厚い本はなんて本なの?」
「コナンドイルの"バスカヴィル家の犬"っていう本だよ」
「へえ〜。この前もコナンドイルが好きだって言ってたよね」
「読んだことある?」
「……あはは、それは、ないかな。それでその、バスカヴィル家の犬だっけ? 面白いの?よくあんな分厚い本を読み続けられるよね。私だったら途中で飽きちゃうかも」
「それがね。飽きないくらい面白いんだよ」
僕が得意げになるところではないのに、自分ごとのように鼻が高くなる。
沢多さんはそんな僕の話を頬杖をついて聞いてくれていた。
「どんなお話なの?」
優しい人だ。沢多さんは僕が好きなものの話をしても気持ち悪く思わない。
興味深そうに耳を傾けてくれるから、舞い上がる。
「──で、バリモア夫妻は、古くからバスカヴィル家に仕える執事なんだけど、チャールズ卿の事件以来、突然暇を願い出るようになるんだ。しかもその執事は、夜にランプを使って外の誰かに合図を送っているようで、ヘンリー卿はそれを不可解に思ってた」
「うわっ、そのバリモア夫妻絶対に怪しいじゃん」
「うん。そうなんだよ。いかにも怪しく書くからすごいんだ。他にも、ヘンリー卿はバスカヴィルの屋敷に赴く前に靴が盗まれてしまう。盗まれた靴は二足なんだけど、何故かどちらも片方だけなくなっていてね」
「……え、なんでどっちも片方だけ?」
「変なんだよ。チャールズ卿は魔犬に襲われて亡くなったとされているけれど、その血縁であるヘンリー卿の周りで起きている不可解な出来事と因果関係がないとは思えなくて」
楽しい。止まらない。
お客さんの対応をしていない時間はずっと僕が喋っていた。
夢のような時間だった。
「本当に面白そう。君は小説の話をしているとまるでイキイキとしているね」
「そ、そうかな……そんなことを言ってくれるのは沢多さんくらいかな」
コスプレをしてクラス展示のビラを配っている生徒が目の前を通り過ぎていく。
フランクフルトを食べている人もいる。
外のテントで焼きそばを売っている人もいる。
そんな眩しい日常の中に、僕も混ざっている。
「東山くんは、自分を過小評価しすぎだよ」
本当は憧れていたんだ。
僕もこの輪の中に入りたいと。
憧れていながらも行動ができなくて。
勇気が持てなくて。
けれど、沢多さんと実行委員をするようになってから、少しだけ自信を持てたんだよ。
「君はとても純粋で、素直な人。周りに影響されずに、好きなものを好きだと思える強い人。人と関わることが苦手でも自分の役割をちゃんとやりきろうとする人。裏表なんてない、優しい人」
僕は──、たぶん。
この気持ちの名前を知ってしまった。
本当によかったのかな?と思いつつも、僕は内心嬉しかった。
沢多さんと会話ができる。
隣にいる。
彼女の瞳に僕が映るとドキドキする。
「ずっと君が読んでるあの分厚い本はなんて本なの?」
「コナンドイルの"バスカヴィル家の犬"っていう本だよ」
「へえ〜。この前もコナンドイルが好きだって言ってたよね」
「読んだことある?」
「……あはは、それは、ないかな。それでその、バスカヴィル家の犬だっけ? 面白いの?よくあんな分厚い本を読み続けられるよね。私だったら途中で飽きちゃうかも」
「それがね。飽きないくらい面白いんだよ」
僕が得意げになるところではないのに、自分ごとのように鼻が高くなる。
沢多さんはそんな僕の話を頬杖をついて聞いてくれていた。
「どんなお話なの?」
優しい人だ。沢多さんは僕が好きなものの話をしても気持ち悪く思わない。
興味深そうに耳を傾けてくれるから、舞い上がる。
「──で、バリモア夫妻は、古くからバスカヴィル家に仕える執事なんだけど、チャールズ卿の事件以来、突然暇を願い出るようになるんだ。しかもその執事は、夜にランプを使って外の誰かに合図を送っているようで、ヘンリー卿はそれを不可解に思ってた」
「うわっ、そのバリモア夫妻絶対に怪しいじゃん」
「うん。そうなんだよ。いかにも怪しく書くからすごいんだ。他にも、ヘンリー卿はバスカヴィルの屋敷に赴く前に靴が盗まれてしまう。盗まれた靴は二足なんだけど、何故かどちらも片方だけなくなっていてね」
「……え、なんでどっちも片方だけ?」
「変なんだよ。チャールズ卿は魔犬に襲われて亡くなったとされているけれど、その血縁であるヘンリー卿の周りで起きている不可解な出来事と因果関係がないとは思えなくて」
楽しい。止まらない。
お客さんの対応をしていない時間はずっと僕が喋っていた。
夢のような時間だった。
「本当に面白そう。君は小説の話をしているとまるでイキイキとしているね」
「そ、そうかな……そんなことを言ってくれるのは沢多さんくらいかな」
コスプレをしてクラス展示のビラを配っている生徒が目の前を通り過ぎていく。
フランクフルトを食べている人もいる。
外のテントで焼きそばを売っている人もいる。
そんな眩しい日常の中に、僕も混ざっている。
「東山くんは、自分を過小評価しすぎだよ」
本当は憧れていたんだ。
僕もこの輪の中に入りたいと。
憧れていながらも行動ができなくて。
勇気が持てなくて。
けれど、沢多さんと実行委員をするようになってから、少しだけ自信を持てたんだよ。
「君はとても純粋で、素直な人。周りに影響されずに、好きなものを好きだと思える強い人。人と関わることが苦手でも自分の役割をちゃんとやりきろうとする人。裏表なんてない、優しい人」
僕は──、たぶん。
この気持ちの名前を知ってしまった。