「そっ……か、君1人でできるのか」

押し黙っていたら、隣からポツンと寂しげな台詞が吐き出された。
見れば、沢多さんが伏し目がちになって笑っている。


「え……」


どういうことだ?
と、狼狽しているとすかさず中野さんが楽観的に笑ってくる。


「東山くんが1人でやるって言ってるんだからお言葉に甘えればいいじゃん? 東山くんとお仕事するよりも、うちらと遊んでる方が楽しいでしょ」
「せっかく気を効かせてくれてることだし、よくね?」


──僕といるより、楽しい。
それは当たり前のことだ。
これまでにろくに人と関わったことのない僕なんかと実行委員の仕事をするより、慣れ親しんでいる友達とともに過ごす方がいいに決まっている。

沢多さんと一緒にいたかった、だなんてそんなことは言ってはいけない。
烏滸がましいにもほどがある。


「……君は、鈍感だね」
「え、」


消え入りそうな言葉はよく聞こえなかった。
沢多さんは目を細めて笑っているけれど、それがどことなく悲しそうに見えた。

どうして?
いつもと違うよ?
なんて、勇気がなくて聞けなかった。



「せっかく誘ってくれたのは嬉しいけど、仕事を放棄なんてできないよ。だから、皆で回ってきて」



すぐに沢多さんは花が咲いたような明るい表情を浮かべていたから、そんなのは杞憂だと思ったんだ。


「えっ、奈央ちゃんマジ?」
「なんでよ。付き合い悪い!」
「はは……ごめんね」
「模範生徒ってのも大変だなあ」
「だから言ったろ。そもそも沢多が自分の仕事をすっぽかすわけねぇし。いいわ、俺もクラスに残る」
「はあ?ちょっと加藤!……ねえ奈央ちゃん、なんでもいいから抜けられないの? 奈央ちゃん私の友達だよね?」
「友達だけど……ごめん。もう時間だから行くね」


僕と沢多さんはそのまま教室をあとにした。
昇降口外にある総合受付テントの中に入り、担当を交代する。

正直、まだ心臓が脈を打っていた。
隣を盗み見るかぎりでは沢多さんはいつも通りで。誰もが目を引くような活発な、明るい女の子がそこにはいた。


「よかったの?」
「何が?」
「中野さんたちの誘いを断ってしまって」
「えーなんで。普通断るでしょ」
「……だけど」
「仕事をすっぽかして友達を優先するなんてクズじゃん。君は、私がそんな意地の悪い女の子だと思っていたのかな?」
「お、思ってないよ。せっかく誘ってくれたのにって思っただけで。僕のことは気にしなくてよかったんだけれど」


パイプ椅子に座って行き交う人々を眺めた。
総合受付の仕事は案外暇だった。
とくにお客さんの方から声をかけられないかぎりは、ただ座っているだけ。

これだったら僕1人で平気だったのに。


「そこは、気にしてほしかったかも」
「……え?」
「なあんてね。なんでもない。それにしても暇だねぇ〜。1時間どんな暇つぶしする? あ、そうだ。東山くんのおすすめの本の話が聞きたいな」