「奈央ちゃーん、これから加藤たちと校内を回ろうと思うんだけど、一緒に行くよねー?」


すると、派手な髪をポニーテールにしている中野さんがこちらまでやってきた。
その背後には、彼女とよく一緒にいる女子たちと、加藤くんをはじめとする男子たち。
加藤くんはホスト役をしているから、格好からして様になっていた。


「2組はお化け屋敷なんだって! 男女2人ずつで入ろーってなっててぇ」
「あと、女子メンで写真も撮ろうよー。グラウンドに超映えるモニュメントがあるみたいで、インスタにアップしたいんだよねぇ!」
「つーか沢多いねえと加藤が付き合ってくれねぇからさあ、頼むわー」
「あ? お前、シバくぞ」


──あ、なんだ、そっか。そうだよな。

クラスの中心メンバーたちを前にするとどうも萎縮してしまった。

当然のことだけれど、彼らと会話をしたことなんてない。僕と違ってこうもキラキラしてる。
理解はしていたけれど、沢多さんも彼らと同じで、僕とは住む世界が違う人なのだ。
俯きながら内心残念に思ってしまったのは、きっと僕が自惚れていたからで。

浮かれてしまって恥ずかしい。


「沢多さん、行ってきていいよ。総合受付は、僕1人でやるから」


そうだ。沢多さんは誰にでも親切な人。
ただ、すごく優しい人だから。

僕をすごいと言ってくれたのも。
僕と一緒に星空を見上げたのも。
僕の好きなものの話を熱心に聞いてくれたのも。
僕とアイスを半分コしてくれたのも。

特に深い意味は、ないんだ。


そう思うと胸がチクリと痛くなるのはどうしてだろう。僕は、勝手に彼女を近くに感じてしまっていたのかな。


「僕のことは、気にしないで、いいよ」
「東山くんやっさしー。奈央ちゃん行こ行こぉ」
「面倒くせぇ仕事は真面目くんがやってくれるっていうんだから、さっさと回ろうぜ? 沢多がこねぇと拗ねる男がいるからよ。なあ加藤?」
「……あ?」
「うわー、でたぁ、ほんとムカツクぅー」


ギャハハハハッ。
楽しそうに笑っている中野さんたち。

彼らに萎縮してしまっていたというのもあったけれど、うまく沢多さんの顔が見られなかった。
そうだ──今日の文化祭が終わったら、僕と沢多さんはただのクラスメートになる。
もう実行委員会に一緒に参加することもなくなるし、クラス展示の予算を考えることもなくなる。
材料を買いに行くのも、ともに作成作業をすることも。
少し前の生活に戻るのだろうと思うと、また胸が痛くなった。