女子とはじめて半分コをしたアイスの味はよく分からなかった。
緊張をしてしまうあまり、よく味わうことなく飲み込んでしまったような気がする。

明日も、明後日も、沢多さんと会話ができるだろうか。
いつのまにか身の丈にあっていない期待を抱くようになっていた。


「東山くん、東山くん」


2時間目の現代文の授業がはじまる直前に、前の席に座っている沢多さんがいきなり振り向いてきた。

うわ、と声が漏れそうになる。
大きな宝石のような瞳が目の前に飛び込んでくるのは心臓が悪い。

こっそりと耳打ちをするように手のひらを口もとに当てている彼女は、現代文の担当の先生を気にするようにしてさらに続けた。


「シャーペン、貸してくれない?」
「……え?」
「あはは、失くしちゃったみたいでさ」
「ぜんぜん大丈夫だけど……はい」
「ありがとう〜、助かったー」


失くしたって、予備のものもだろうか?

見る限り、沢多さんの机の上には参考書とノートだけがあって、筆入れらしきものは置いていなかった。

筆入れごと家に忘れてきてしまったのか。
1時間目の時はどうしていたんだろう。
消しゴムがついているシャープペンシルを渡すと、沢多さんは何度もお礼を言ってくれる。


「色ペンはいる? 僕沢山持ってるよ」
「……ほんと…? じゃあ、今日1日貸してもらえると嬉しい…」
「ぜんぜんいいよ。好きなの使って」


完璧そうな印象がある沢多さんでも忘れ物をすることもあるんだな。
シャープペンシルだけだと板書がしずらいだろうから、赤ペンと青ペンを彼女に貸してあげた。


「ありがとう。しばらく借りるね」
「うん」


再び前を向き直る彼女の背中をつい見てしまう。
僕なんかでも彼女の力になれた。それがなんだか嬉しかったんだ。






「今日はほんっとに、ありがとう」


6時間目の授業が終わって、沢多さんが僕の前に貸していたペン一式を差し出してきた。

──あ、そうだった。すっかり貸していたことを忘れていた。
参考書を閉じて受け取りながら、僕がこれまでにさほど人とものの貸し借りをしてこなかったことに気づいた。

貸したものを返してもらった時ってこんな気持ちなのか。
胸がこそばゆいな。



「ううん、役立ったのならよかったよ。それしてもどうしたの? 今日は筆入れ忘れちゃったの?」