ピロリーン、ピロリーン。
横断歩道を渡り切ってコンビニの中に入った。
アイスコーナーへまっすぐ向かっていく沢多さんにまだドギマギしながらも「チョコ」と答える。


「私と一緒!」
「沢多さんも好きなんだ」
「アイスって言ったら絶対にチョコだよね。しかも、チョコアイスの中でこの銘柄が一番好き」


沢多さんが選んだのは、真ん中でパッキンと2つに割ることのできるタイプのものだった。


「それ僕も好きなやつだ」
「えっ、ほんと? やっぱりこれ一択だよね! 正直、カフェで出てくるようなデザートでもこのアイスには劣ると思うんだよ」


素朴な味わいがして好んでいたけれど、まさか沢多さんも同じだったなんて。
女の子にとってはこんなシンプルなアイスではなく、SNSで人気のあるカフェのデザートの方がいいんじゃないか?と思ったが、どうやらそんなことはなかったようだ。
意外だった。


「好きなものが一緒って、嬉しいね」
「うん、でも沢多さんがそんなにもこのアイスが好きだったなんて驚いたな」
「ふふふ、東山くん。私はね、好きすぎてほぼ毎日このアイスを食べているのだよ」
「ま、毎日……?」


僕の予想を遥かに超えていた。
そんなに食べているというのによく太らないなあ、とスカートから伸びている華奢な脚に視線がいって、慌てて目を逸らす。


「引いた?」
「ひ、引かないけど、食べ過ぎはよくないんじゃ……」
「あははっ、気にするところそこか」
「え? 逆に何を気にするの?」
「んー? ううんー。やっぱり東山くんは東山くんだね」


…-いけない。
どこを見ているんだ。
馬鹿か僕は。



「じゃあ、半分コして食べながら帰ろっか」


アイスコーナーからお目当てのチョコアイスを手に取って、レジへと歩いていく沢多さんにまたドキドキする。

なんだろう、これは。
どんどんと距離が縮まっていくことに動揺しながらも、嬉しく思っている僕がいる。
願うのはお門違いだと分かっていながらも、沢多さんの笑顔をもっと見ていたいと思っている僕がいる。


他にはどんなものが好きなのだろう。

僕の好きなものに興味を示してくれた人。優等生で、誰にでも優しい穏やかな人だと思っていたけれど、実はかなりマイペースで無茶苦茶だったりする。


最近の僕は沢多さんのことばかりだ。
朝起きると今日は沢多さんと話すことができるかなと考える。
自分から話しかける勇気があったらどんなにか。

情けないことに、中野さんや加藤くんたちと一緒にいる時の沢多さんを見ると、ああ、やっぱり彼女は僕とは別次元の人なのだと思い知らされるんだ。


──沢多さんは僕にとって星のような人だ。

近くにあるようで、実は数億光年も離れたところで輝いている。
手を伸ばそうとしたところで、何にも触れられることなくただ空を切るだけだということも、勿論分かっていた。