"友達"
そのワードを聞くのはまだ照れくさい。
僕とあの沢多さんが友達。
中野さんや加藤くんとも渡り合えているような人気者の沢多さんと、僕が友達。

お寺で星を一緒に見た出来事を思い返してまた胸がドキドキした。


「委員会が終わったら、この前付き合ってくれたお礼にアイス奢らせてよ」


日ごとに僕の世界が彩られるのは沢多さんがいるからだ。
目が合うと身体が火照る。
話しかけられると飛び跳ねるくらいに嬉しい。
彼女は僕に、はじめての感情をくれる。






「今年の文化祭は後夜祭でキャンプファイヤーをするって、随分と思い切りが良すぎると思わない?」


下駄箱で靴を履き替えていると、沢多さんが呆れたように口を開いた。
彼女の黄色のリュックには、星型のキャラクターマスコットがついていた。よほど好きなんだなあ。


「去年はなかったよね」
「ねー。その分実行委員が見回りをしないといけないんだから、嬉しいんだか嬉しくないんだか、分かんないよね」
「僕はどうせ1人でぼーっとしているだけだっただろうし、いっそ仕事があってよかったかな」
「もうっ、君には夢がないよ、夢が!」


校門を出て、正面の通り沿いにあるコンビニへと向かいながら、沢多さんは唇を尖らせる。

夢、か。
でも実際、僕が文化祭実行委員をやっていなかったら、後夜祭のキャンプファイヤーは確実に手持ち無沙汰になると思う。
男女のカップルがフォークダンスをしているのを、ただ眺めているだけの寂しい絵面しか思い浮かばない。


「でも、そっか。沢多さんも中野さんや加藤くんたちとキャンプファイヤーしたかったよね…」


横断歩道の信号待ちをしている時も、隣に沢多さんがいることにソワソワしていた。


「君は分かってないね」
「え?」
「私は東山くんとしたかったなあって思ってたんだけど」
「……僕、と?」


ブォォォ、と自動車が発進する。

聞き間違いだろうか。
沢多さんが、僕と? 仲のいい中野さんや加藤くんではなく、何故僕?

あんぐりと口を開けていたら、沢多さんがプハッと可笑しそうに吹き出した。


「なぁーんてねっ」


歩行者信号がようやく青になる。
くるりとステップを踏みながら先を歩く沢多さんに釘付けになった。


──なんだ、冗談か。そうだよな。
すっかり舞い上がってしまったのが、恥ずかしい。


「東山くんはアイスは何味が好き?」