すごく残念そうにしている中野さんたち。
沢多さんがいないといけないだなんてやっぱり人気者なんだな、と感心する。
もしそれが僕だったのなら、いてもいなくても変わらないと思うし。


「あっ、加藤いいところに。今日の放課後、文化祭の準備が終わったらみんなで遊び行こうって言ってるんだけど、加藤も来るー?」


読書を再開させようとしたが、今度は加藤くんがズカズカと教室の中に入ってきた。
今日も腰パンをしている。
いつも一緒にいる男子メンバーを引き連れている彼に、中野さんが話しかけていた。


「へえ、それって沢多も来んの?」
「私は実行委員会があるから行けないんだ」
「ふーん。じゃあいいわ」
「ちょっ、はあ? 待ってよ、なにそれ面白くないっ!」


加藤くんはすぐに興味をなくしたように歩き出し、彼女たちをスルーする。
一方で、中野さんはひどく怒っているようだった。


──兎にも角にも、僕は傍観者でしかない。
関係ないこと。
縁遠いもの。
再び小説へと視線を落とし、物語の世界に入っていった。






「──東山くん東山くん」


放課後になり、内装用のダンボールの裁断を一通り終えた時に背後から声をかけられた。

振り返ると真っ白なセーラー服。沢多さんが立っていた。


「もうそろそろ時間だから、行こっか」
「あ、うん。ごめん、僕ダンボールを切るのに夢中になってて」
「みたいだったね。君、すごく真剣な顔をしていたよ」
「ちょっと、いつから見てたの、恥ずかしいな」


慌ててハンカチで汗を拭う。
切り揃えたダンボールを壁に寄せるのを沢多さんも手伝ってくれた。


「ふふ、いつからでしょう。知らないだろうけど、私、君のことを結構チラチラと見てるんだよ」
「えっ」


どういう意味だ、それは。
動揺をしている僕を他所に、沢多さんはマイペースだ。
「どこの教室でやるんだっけ」と歩き始める彼女のあとをついていくしかない。

しかも、彼女は廊下ですれ違う生徒たちから次から次へと声をかけられるものだから、僕はいつものように数歩後ろを歩いた。
ただの下校の挨拶であるにしても、僕が隣を歩いていたら奇妙に思われるだろう。


「東山くん、いつも思っていたけど、なんでそんなに間をあけて歩くの?」


階段を降りながら"バイバイ"と手を振っていた沢多さんが、急に踊り場で立ち止まった。

びっ、くりした。
危うくぶつかるかと思った。


「だって、そうしたら僕たちが仲良さそうに見られてしまうかもしれないし」
「いいじゃん。実際に仲良くしてるんだし」
「えっ、でも、いいの?」
「君は私の友達でしょ。友達は、そんな遠慮なんてしないんだよ」