お昼休みにお弁当を食べ終えた僕は、いつものように小説を読んでいた。

今日も教室の中は賑やかだった。
男子はゲームの話をすることが多く、女子はドラマや漫画、付き合っている人の話をしていることが多いようだが、それに僕が混ざることは当然の如くなかった。

机の中から取り出した"バスカヴィル家の犬"。
もうこれを読むのは5回目になるけれど、好きな小説は何度読み返しても面白いものだ。


挟んであった、動物柄の書店の栞を外してページを開く。


コナン・ドイル著の"バスカヴィル家の犬"はかの有名なシャーロックホームズの関連作品で、魔犬による祟り伝説がある富豪のバスカヴィル家を舞台にした推理小説だ。

バスカヴィル家の当主である、チャールズ・バスカヴィル卿がある日、亡骸として発見されることから物語が動き始める。
世間一般的には魔犬に襲われて亡くなったとされていたが、シャーロックホームズは人間が仕組んだ事件であると考え、ワトソンをバスカヴィル家へと向かわせた。

チャールズ卿の遺産の相続人は彼の甥であるヘンリー・バスカヴィル卿のみ。
そんな彼の元へもついに、怪しい手紙が送られるようになった。

バスカヴィル家の周辺には、とても怪しい人物たちがいて、僕も読みながら誰が犯人であるのかを考えさせられたものだ。

これは、口にしたらきっと笑われるだろうし、恥ずかしくて誰にも言えないことだけれど、僕もいつか、コナンドイルのような素晴らしい推理小説を書いてみたいと思っている。

でも、もしかすると沢多さんだったら、笑わずに聞いてくれるのかな。


「奈央ちゃーん、今日の放課後なんだけど、文化祭の準備が終わったら駅前のカフェ行こー? インスタでめっちゃ話題になっててさあ、由奈と亜美と一緒に行こうって話しててぇー」


ペラリ、ページをめくっていると、中野さんの甲高い声が聞こえてきた。

クラスの中心的な存在である沢多さんは、基本的に毎日中野さんたちと昼食を取っている。
すごいなあ、僕は誰かとお弁当を食べたことなんてないような気がする。

あ、でも。
確か今日は17時から──。


「ごめん、せっかく誘ってくれて嬉しいんだけど、実家委員の集まりがあって行けないや」


気になってしまって沢多さんたちの方に目を向けてしまう。


「えぇーなぁんだ、奈央ちゃん来れないのー? がっかりー」
「ごめんって。今度埋め合わせするから」
「奈央ちゃんがいないといいね沢山貰えないからテンション下がるよー。ねえ、みんなー?」