本当だ。
人に近づいてくる猫なんて珍しい。
沢多さんの周りをクルクルと回ると、またニャアと小さく鳴いた。


「迷子猫かな」
「どうだろう。放し飼いをしているのかも」
「こんな遅くまでお外にいるなんて、飼い主が心配するよ。お家におかえり?」
「ニャアニャア」


チリン。
また鈴が鳴る。

この黒猫は沢多さんのことが気に入ったみたいだ。すごいな、動物にも好かれるなんて。


「なんて言ってるんだろうね」
「さあ、どうだろう」
「東山くんはビビり、って言ってるのかも」
「ちょっと……それはもう忘れてよ」
「ふふっ、忘れないよねー、猫ちゃん」


おずおずと僕も彼女の隣に近寄ってしゃがみ込んだ。
本当だ、よく懐いている猫だ。ジッとこちらを見つめている姿は妖艶だった。


「君はお寺の猫ちゃんですか?」
「…ニャア」
「私は沢多奈央。この人はね、お友達の東山くん」
「お、お友達!?」
「え、そうじゃないの?」


ヨシヨシと猫の頭を撫でている沢多さんを凝視する。
心臓がまたうるさくなった。待って、僕があの沢多さんのお友達?
そんなことがあるわけ──。


「私と君は、とっくに友達だよ」


あるわけ、ないのに。

嬉しいと思ってしまう。
自惚れてしまう。



「──私ね、東山くんと一緒に実行委員ができて本当によかった」



くったくのない笑みを浮かべられたら、胸がカアッと熱くなった。

沢多さん。沢多さん。沢多さん。
頭の中が彼女で埋め尽くされる。

ふわりと揺れる白いワンピースがよく似合う女の子。セーラー服がよく似合う女の子。動物好きな女の子。
これまで感じたことのない感情に困惑しつつも、その日はお開きになった。

改札をくぐって、上りホームへと向かっていく彼女を僕はずっと見つめてしまった。
小さく手を振ってくれる沢多さんにまたドキドキする。


舞い上がっていた。

学校で人気者な沢多さんと、皆に内緒で土曜日の夜に星を見た。
墓地を1人で歩かされたのは奇想天外だったけれど、思い返すとあれも楽しかった。

家で小説を読んでいる時間とはまた違った楽しさ。
暖かい。ホワホワする。彼女と話していると、まるで世界が明るくなって、色づくような。

これからもそんな日々になるのだと思うと、無意識に頬が緩んでいく僕がいた。