沢多さんって優等生で、いい意味で八方美人なタイプだと思っていたのに割とゴーイングマイウェイなところがある。
これは最近僕が知ったことだ。


「しょ、小説……」


僕みたいな人間の趣味を知ったところで、誰が得をするのだろう。
話題の課金ゲームだとか、YouTubeだとか、皆はそういうものを好んでいるようでどうも言い出しにくかった。

本が好きだなんて明らかに根暗だし。


「小説…! よく読んでるもんね。ジャンルは?」
「推理小説が一番好きかな」
「へえ〜すごい! 好きな作家さんは?」
「コナンドイルが一番。世界観とか、そういうのがすごくいいなって。伏線が巧みに張り巡らされているのが回収される時、鳥肌が立つんだよ」
「コナンドイルかあ〜。映画を観てる時もさ、ここのアレは、ここでこうなるんだ!って分かった時、作家さんってほんとすごいなあって感動しちゃうんだよね」
「うん、そうなんだ。それで、どんどんと想像が膨らむ。僕だったら黒幕をこういう風に動かすのにとか。ここでこの伏線を入れたら面白いな、とか考えちゃう。いつか僕も──……」


饒舌になりかけていた口を咄嗟に閉じる。


……あ。しまった。
調子に乗った。

恥ずかしくなって隣を見ると、沢多さんがニコニコして僕を見ている。
気持ち悪いと思わないのかな。
沢多さんみたいな人に、僕なんかの趣味をペラペラと……。


「やっぱり、東山くんは面白い人だね」


身体中に変な汗をかいて俯いていたら、身に覚えのない台詞が聞こえてきた。
僕が、面白い?
沢多さんは何を言っているんだ?

小説しか読んでいないような、クラスでも浮いている存在の僕が面白いわけない。
今の流れの中のどこをそう思ったのか、解せなかった。


「いいなあ、なんかそういうの。僕はこれが好きです、って誰のことも気にせずに1人で世界に入り込めちゃうところ」
「それは、ただ根暗なだけなんじゃ……」
「誰にでもできるわけじゃないよ。みんなと好きなものが同じじゃないと、その人たちの輪に入れなくなる。君は、それに怯えてない」
「……沢多さん?」