完璧な自分を演じ続けてるだけ?

正直、はいそうですかと受け入れることのできない内容だった。
僕にとっての沢多さんは雲の上の存在なのだ。だからこそ、そんなことってあるのかなと思ってしまう。


僕みたいに、勇気を振り絞らないとクラスメートにすら話しかけられないような人種とは違うじゃないか。
人と関わることにビクビク怯えている僕とは違う。

だから、沢多さんのことはやっぱり羨ましい。僕は結局、彼女になんの回答もすることができなかった。







「着いたっ!」
「……げぇ」


10分ほど歩くと、薄暗い通りに差し掛かった。
開けた場所にあるそこには、いくつものお墓があった。お化けのようにうねっている木々。苔が生えてくずれかけている墓石もある。
今にも何かが出てきそうな雰囲気だ。

というか、まさか本当に墓地に行くつもりだったんだ。
こんな場所で肝試しをするなんて、バチが当たるんじゃないかと思う。けれど、沢多さんは俄然やる気のようだった。
そんなにお化け役がやりたかったのか。


「じゃあ、どこかに隠れるから、5分くらいしたら歩いてきてね」
「……ほ、本気でやるの?」
「もちろん、やるよっ? 東山くん、君、もしかして怖気付いたのかな?」


うっ、と変な声が出る。
「そ、そんなことないけど」と咄嗟に強がったが、内心ドギマギしていた。
前屈みになって悪戯な顔をして笑う沢多さんはそのまま暗闇の中に消えていったが……怖いもの知らずだな。

もしかすると心霊現象の類は信じていないタイプの人なのかもしれない。
その点、僕はわりと足がすくんでしまって、情けない。



「沢多さん、もういいー?」



5分ほど経って恐る恐る声をかける。けれど、返事はなかった。
もういいかな。この中央の通りを進めばいいんだよね?

ドキドキしながら一歩足を踏み出す。
斜めがけをしているバッグの紐をギュッと握った。


なんか、心なしかこの一角だけ寒い気がする。生えている木が音を立てて揺れるたびに肩が震えた。
沢多さんはよくこんな場所にひとりで隠れられるな、と感心してしまうほどには不気味な場所だった。


ほ、本当に幽霊が出てくることはないよね?

もういいからはやく沢多さんを見つけて帰ろう。そうしよう。



「さ、沢多さーん……」


どこにいるのー?

辺りを見回すのもいっそ怖い。身を縮こめていたら、ガサガサッと草むらが揺れた。
まさか本当に──と血の気が引いていくが、飛び出してきたのは黒猫だった。


「な、なんだよ……猫か、驚かせるなよ」


ニャア、と鳴いた黒猫は、僕のことを一瞥するとさらに先の暗闇の中へ消えていく。
そうだよな、幽霊なんて出てくるわけない。大丈夫。大丈夫。
気を取り直して沢多さんを探そう、とホッと胸を撫で下ろしたのだが、


「──…ねえ」


背後から掠れた声が聞こえてくると、事態は一変する。

──え?
ひどい悪寒がした。背筋が凍りつく。心臓が飛び跳ねてしまって様子がおかしい。
一瞬で頭の中が真っ白になった。


「ミツケタ…」
「うわああああ!」


安堵したのもつかの間、背後から女の人の声が聞こえてきて尻もちをついてしまった。

本物だ。本物の幽霊だ。

ごめんなさい、もうしません。こんな場所で肝試しなんてバチが当たることをしてしまいました。許してください。
カタカタと震えていたら、フッ、と吹き出すような笑い声が聞こえてくる。



「あっははっ、東山くんビビりすぎ!」
「え……あ、さ、沢多さん……?」
「やばっ、おもしろ、リアクション芸人になれるよ、君」



顔を上げると、月光に照らされた沢多さんが立っている。
白いワンピースが幻想的に揺れていた。まるで、本当に死の世界へと招く少女の幽霊のようだった。