宙ぶらりんなままの私の恋とは裏腹に、二人で奏でた音楽室の音は一つのゴールへとたどりつく。ついに合唱コンクール当日がやってきた。

 隣のクラスが歌っている。この学校のクラス替えは部活ごとの偏りが激しいようだ。そのせいか隣のクラスはやたら合唱部員が多い。客観的に聴けば圧倒的優勝候補である。いつも強気なアヤカが不安そうに「勝てるかなあ」とつぶやいた。緊張しているようだ。響也がアヤカの肩に手を置いた。

「奇跡は起こすもんだろ。俺たちで奇跡起こしてやろうぜ」

誰に対しても優しくて、努力家で何でも自分の手でつかみ取ってきた。響也の言葉には説得力があった。クラスの空気が変わった。さすが響也だと思った。一方で不謹慎極まりないけれど、アヤカに嫉妬した。

 発表は完璧の一言だった。私たちのクラスは優勝した。完全に錯覚ではあるけれど、音楽室に咲いた恋の花に果実が実ったような気がした。

 クラスは当然のように狂喜乱舞である。アヤカが唐突に決めた打ち上げにも関わらず出席率は9割以上だった。みんなが青春の熱に浮かされて、涙を流し、抱き合い、SNSにハッシュタグつきで感動を共有した。

 どんちゃん騒ぎの中でも、ちゃっかり響也の隣の席をキープした。明日からもう、響也のピアノを聴くことはないのだと考えるととても名残惜しい。だからこそ、あの時間が確かに存在した記録としての優勝という結果は私にとって大きな意味を持った。

 ねえ、響也はあの時間を少しでも愛しいと思ってくれた?そんなことは聞けないし、響也の表情を見ても分からない。その答えを知ることは、きっと期末テストで全教科満点をとることよりも難しい。もっとも、そんな好成績はとったことはないけれど。

「練習付き合ってくれてありがとな」

響也が言った。響也は律儀だから、ただ感謝を表明しているのであってそこに恋慕の情はないと分かってはいるのに舞い上がってしまう。

 このあと、二人きりの打ち上げに誘われたりしないかなと期待してしまった。当然、そんな夢物語みたいな奇跡は起こらないのに。