新生徒会が発足して早々、雑務に追われるようになった。生徒会長のユウジと副会長のエリは特に忙しそうだ。けれども、この忙しさは生徒会の結束を強めた。引き継ぎが一段落して昼休みにわざわざ生徒会室に集まる必要がなくなっても、生徒会のみんなで昼食を食べることも多い。

 ある日、みんなでお弁当を食べていたら、エリが急に打ち明けた。

「実はユウジと付き合ってます」

 ユウジが続けるように言う。

「そういうことです」

 何が「そういうこと」なのか。女の子に言わせないで男から言うのが男気じゃないかと思ったけれど、二人には二人の事情があると思い飲み込んだ。

「おめでとう」

 私たちは二人を祝福した。それでこの話は終わりだと思ったら、メンバーのケイスケまで打ち明け始めた。

「ユウジたちが言うなら、僕も言うよ。実は、僕もクラスに彼女がいる」

「ええっ、ケイスケまで?いいなあ。ウチは彼氏いないけど、華音と響也もモテそうだよね」

 ケイスケの暴露を別のメンバーであるサクラが拾って、私たちに飛び火させた。

「いないよ、私はテニスが恋人だから」

「いやいや、テニスは俺の恋人だから」

 私と響也は顔を見合わせて笑った。

 人は噂話が大好きだ。特に、恋の話が大好きだ。ただ、中には人から受けた相談内容をそのまま言いふらす人間もいる。さすがにマナー違反だと思う。

 私は友だちが多い。だから、友人から相談を受けることも多い。それに恋バナはコミュニケーションツールとばかりに、みんな恋愛の話をする。でも、私は絶対人から聞いた話をよそには流さないようにしている。今日、生徒会長と副会長は付き合っているんじゃないのかと探りを入れられたけど、知らないとごまかした。

 わざわざ口には出さないけれど、噂話の何が楽しいんだろう。友だちが話したくないことは無理に暴きたくない。友だちが話したいことだけ話してくれればそれでいい。楽しい時間を過ごすことが一番大事だ。挨拶程度の付き合いの人間が誰と付き合っているかよりも、隣にいる大切な友だちが今好きな音楽の方が私にとっては興味のあることだ。知らない人の話よりも、友だちが今読んでいる本や漫画のタイトルが聞きたい。

 ちなみに、響也はとあるアイドルにはまっているらしい。今読んでいる本は小説版『銀河ヒッチハイク・ガイド』らしい。海外のSF作品と聞いただけで難しそうだと気後れしてしまう。響也いわく、そんなに肩肘張って読むものではないらしいが。

 そんな中、進路希望調査票が配られた。当然、こういったことも噂話の対象になる。頭のいい響也は格好の対象だった。東京の大学に進学するらしい、来年の9月に海外の大学に留学するらしい。様々な噂が交錯した。胸がかつてないほどざわついた。