「おっ、いいな。でも、コート整備しなきゃいけないしあんまり時間なくね?」
「うん、だから一球勝負。勝った方が負けた方に何でも一個だけお願いできるってことで」
嘘。時間があっても、一球勝負にするつもりだった。男子とフルセットで勝負して、勝てるとは思っていない。でも、一球勝負ならもしかしたら勝てるかもしれない。
「言っとくけど、一杯700円のフラペチーノとか高いもの頼むのはナシだからな?」
「そこまで意地汚くないよ」
「了解。レディファーストだ、サーブはどうぞ」
武士の情けを突き返すプライドなんてない。少しでも優利になるのならそれでいい。今から雑念と煩悩にまみれた不純なテニスをする私に余裕なんてどこにもない。
「男テニのキャプテンなめんなよ。覚悟しとけ」
響也の目が、ピアノを弾いていたときと同じ真剣な眼差しに変わる。私とは対照的なこのまっすぐな瞳が好きだ。
ありったけの力をこめて、サーブを打った。響也が打ち返し、私もループボールを打ち返した。ループボールでのラリーが続く。攻めなきゃ、勝てない。派手な回転をかけて、響也を揺さぶる。隙を狙って、強く打ち込む。次々と返球され、左右に走らされる。響也の打球が重い。手が痺れそうになる。
ボールが打ち上がった。響也はそれを見逃さない。高く跳び上がって、スマッシュを打った。思いっきりスライディングして無理矢理打球にラケットを伸ばす。なんとか届いた。全身全霊の力をこめて、ラケットを振る。
私のリターンがネットにあたる。ネットがひずんで、ボールが上に跳ねた。向こうに落ちれば私の勝ち。こちらに落ちれば私の負け。お願い神様、この先一生勝てなくてもいいから、今日だけ勝たせて。跳ね上がったボールは、私のコートに落ちた。神様も仏様もお星様も私に微笑んではくれなかった。
「うん、だから一球勝負。勝った方が負けた方に何でも一個だけお願いできるってことで」
嘘。時間があっても、一球勝負にするつもりだった。男子とフルセットで勝負して、勝てるとは思っていない。でも、一球勝負ならもしかしたら勝てるかもしれない。
「言っとくけど、一杯700円のフラペチーノとか高いもの頼むのはナシだからな?」
「そこまで意地汚くないよ」
「了解。レディファーストだ、サーブはどうぞ」
武士の情けを突き返すプライドなんてない。少しでも優利になるのならそれでいい。今から雑念と煩悩にまみれた不純なテニスをする私に余裕なんてどこにもない。
「男テニのキャプテンなめんなよ。覚悟しとけ」
響也の目が、ピアノを弾いていたときと同じ真剣な眼差しに変わる。私とは対照的なこのまっすぐな瞳が好きだ。
ありったけの力をこめて、サーブを打った。響也が打ち返し、私もループボールを打ち返した。ループボールでのラリーが続く。攻めなきゃ、勝てない。派手な回転をかけて、響也を揺さぶる。隙を狙って、強く打ち込む。次々と返球され、左右に走らされる。響也の打球が重い。手が痺れそうになる。
ボールが打ち上がった。響也はそれを見逃さない。高く跳び上がって、スマッシュを打った。思いっきりスライディングして無理矢理打球にラケットを伸ばす。なんとか届いた。全身全霊の力をこめて、ラケットを振る。
私のリターンがネットにあたる。ネットがひずんで、ボールが上に跳ねた。向こうに落ちれば私の勝ち。こちらに落ちれば私の負け。お願い神様、この先一生勝てなくてもいいから、今日だけ勝たせて。跳ね上がったボールは、私のコートに落ちた。神様も仏様もお星様も私に微笑んではくれなかった。