高校三年生の一学期、出席番号の関係で初日から隣の席になった宇佐見姫花は僕の想像していた人物像とはかけ離れていた。学年文集に「世界を壊したい」なんて書くくらいだから、とんでもない根暗かサイコパスか、あるいは何かのアニメに影響を受けたオタクだと思っていた。
しかし、僕が実際に目にしたのは、オーケストラ部でバイオリンを奏でるお嬢様。英語だけでなくフランス語も堪能な帰国子女。黒く綺麗な髪を幼い子どものように高い位置でツインテールにしても様になってしまうような美少女。彼氏はいないが、男子生徒にはよくモテる。先生からも名前で呼ばれるタイプの愛されキャラ。明るく気さくな性格かつ、流行に敏感でおしゃれなので女子からも人気者で、スクールカースト最上位のギャルたちと仲が良かった。
「宇佐見さんは、何で世界を壊したいの?」
休み時間、片耳で音楽を聴きながらスマートフォンをいじる彼女に、どうしても気になって尋ねてみた。あの作文には、肝心の世界を壊したい理由が書かれていなかった。そして何より、彼女は青春を謳歌し、世界を楽しんでいる側の人間に見えたからだ。
「ああ、作文のこと?」
律儀にイヤホンを外して、僕の目を見て高い声で彼女が聞き返した。
「ええー、姫花って世界壊したいの?」
後ろの席の宇佐見の友達、内田菜月が茶化した。
「そうだよー、中二病末期患者だから去年の文集の作文、世界壊したいって書いちゃった!面倒な作文書かせる世界なんて滅びてしまえー!」
身振り手振りを交えて、おちゃらけた口調で宇佐見は友達とけらけら笑った。
「やばすぎ!タナセン激怒でしょ」
「いやー、怒られはしなかったよ-。びっくりはしてたけど、顔こんなんだった!」
タナセンとは去年彼女らの担任だった国語教師の田中先生のことだ。宇佐見が驚いた田中先生の顔のモノマネをして、内田を笑わせた。
「会長くん、去年違うクラスだったのによくアタシの作文読んでたね。まさか学年全員の作文読んだの?」
「あ、あたし分かっちゃたー。姫花のこと好きだから姫花の読んだんだ!あれー、でも会長くんと姫花って去年接点あったっけ?」
思わぬカウンターをくらってしまった。僕は確かに、ほとんどの生徒が読まずに捨てるその冊子に掲載された学年全員の作文を読んだ。しかし、内容が内容だけに、彼女の作文だけが印象に残ってしまったのだ。しかし、あらぬ誤解を生みそうになってとても焦って慌てて弁解した。
「違うよ、内田さん。全員分読んだよ」
「へえ、会長くんは真面目だねぇ」
結論、陽キャの悪ふざけを冗談の通じないガリ勉生徒会長が真に受けた。それでこの件は終わりのはずだった。
しかし、僕が実際に目にしたのは、オーケストラ部でバイオリンを奏でるお嬢様。英語だけでなくフランス語も堪能な帰国子女。黒く綺麗な髪を幼い子どものように高い位置でツインテールにしても様になってしまうような美少女。彼氏はいないが、男子生徒にはよくモテる。先生からも名前で呼ばれるタイプの愛されキャラ。明るく気さくな性格かつ、流行に敏感でおしゃれなので女子からも人気者で、スクールカースト最上位のギャルたちと仲が良かった。
「宇佐見さんは、何で世界を壊したいの?」
休み時間、片耳で音楽を聴きながらスマートフォンをいじる彼女に、どうしても気になって尋ねてみた。あの作文には、肝心の世界を壊したい理由が書かれていなかった。そして何より、彼女は青春を謳歌し、世界を楽しんでいる側の人間に見えたからだ。
「ああ、作文のこと?」
律儀にイヤホンを外して、僕の目を見て高い声で彼女が聞き返した。
「ええー、姫花って世界壊したいの?」
後ろの席の宇佐見の友達、内田菜月が茶化した。
「そうだよー、中二病末期患者だから去年の文集の作文、世界壊したいって書いちゃった!面倒な作文書かせる世界なんて滅びてしまえー!」
身振り手振りを交えて、おちゃらけた口調で宇佐見は友達とけらけら笑った。
「やばすぎ!タナセン激怒でしょ」
「いやー、怒られはしなかったよ-。びっくりはしてたけど、顔こんなんだった!」
タナセンとは去年彼女らの担任だった国語教師の田中先生のことだ。宇佐見が驚いた田中先生の顔のモノマネをして、内田を笑わせた。
「会長くん、去年違うクラスだったのによくアタシの作文読んでたね。まさか学年全員の作文読んだの?」
「あ、あたし分かっちゃたー。姫花のこと好きだから姫花の読んだんだ!あれー、でも会長くんと姫花って去年接点あったっけ?」
思わぬカウンターをくらってしまった。僕は確かに、ほとんどの生徒が読まずに捨てるその冊子に掲載された学年全員の作文を読んだ。しかし、内容が内容だけに、彼女の作文だけが印象に残ってしまったのだ。しかし、あらぬ誤解を生みそうになってとても焦って慌てて弁解した。
「違うよ、内田さん。全員分読んだよ」
「へえ、会長くんは真面目だねぇ」
結論、陽キャの悪ふざけを冗談の通じないガリ勉生徒会長が真に受けた。それでこの件は終わりのはずだった。