「学生諸君、注目!」

 拡声器で声を張り上げる。

「君たち、生きづらくはないか?“オレ”たちは息ができないくらいにこの世界そのものが苦しい!」

 中学生たちが一斉に“オレ”たちを見上げた。

「オレは、ずっと親の言うとおりに生きてきました。先生の期待通りに生きてきました。大人になったら、兄さんに仕えてその人生を捧げろと言われました。そんなのクソ食らえだ!オレはオレの人生を生きる!」

 オレは高らかに宣言した。こんなに大きな声を出したのは人生で初めてだった。拡声器を姫花に渡す。

「ボクが女の子に見えますか?体の性別が女だったら、女として生きないとダメですか?男の子に恋をしたら女の子ですか?どうして世界はボクが女の子として生きることを望むんですか?」

 姫花は髪をほどいた。

「ボクは、男だーっ!」

 姫花はジャケットのポケットからはさみをとりだして、髪の毛を根元からばっさり切った。姫花は顔立ちが整っているから、髪が短い方がしっくりくると思った。

「確かに、学生は勉強しなくちゃいけないし、人を殴ったり傷つけたりしちゃいけない。でも、ちゃんと頑張って生きてるのに、それ以上のプラスアルファをもとめられて辛い人、この中にもいるんじゃないかな。好きな物を好きって言えない人、親の操り人形や着せ替え人形になってる人、男らしく女らしくを押しつけられてる人、友達に本音を言えない人、いるんじゃないかな」

 息を切らせながら姫花が続ける。姫花が疲れてしまいそうなので、拡声器を受け取りオレが続けた。

「オレたちは、ずっと自分を偽り続けながら生きてきて後悔してます。だから、親と喧嘩しても、周りから白い目で見られても、絶対お前らは自分貫けよ!好きなやつには告白しろよ!それで、そうやって生きてる奴らを蹴落とそうとするなよ!オレは本当はロックが好きだ!」

 スマートフォンのひどい音質のスピーカーを拡声器に当てた。音割れしたインストが流れる。海外のロックバンドの自由を歌い上げる曲。オレの一番好きな曲。

 カラオケに行ったことがないから客観的な判断はできないが、歌は得意ではない。どちらかというと音痴の部類だ。英語の発音だってヘタクソだ。それでも、歌った。音を外しても、笑われても良いから歌いたかった。人並みに後夜祭でバンドのボーカルをやることを妄想した夜もあった。それより遥かにロックな舞台で今歌っている。気持ちよかった。隣で姫花がハモっている。はちゃめちゃな歌だったけれども、下の方から何人かの手拍子と歓声が聞こえた。僕らは、僕らを閉じ込めていた世界を壊した。