姫花がフランスに発つ前日、学校説明会の日、姫花と校門前で待ち合わせをした。あの日二人で買った戦闘服に身を包み、僕たちは今日世界を壊す。
「夏場にジャケットは暑いねえ。早くクーラーきいてる校舎に入りたいよ」
無邪気に笑う姫花が眩しい。
「私服で学校入るの、緊張するね」
「完全な校則違反だからな」
登校禁止の日に、先生の目を盗んで私服で教室に入る。人生で一番背徳的だった。僕達が出会った三年A組の教室は今日の説明会では使われない。
「涼しいね。生き返るよ」
リラックスした内容とは裏腹に、緊張した声で姫花が言った。
「栄介、ボク今から変なこと言うけど、受け止めてくれる?」
「今更だろ」
世界を壊すだなんて、僕達は最初から正気じゃない。正気じゃない僕は、正気じゃない君を愛している。でも、それが間違いだなんて思わない。間違っていないと信じているから、僕達は世界を壊すんだ。
「ボクは男の子になりたい。それはずっと変わらない。女の子扱いされるのはもう嫌なんだ」
幾度となく聞いてきた姫花の心の叫び。知ってるよ。だから、好きだと言わずに僕は君を見送るんだ。
「そんなボクが男の子に恋をしたっていったらおかしいと思う?」
頭が真っ白になった。
「ボクは一人の男の子として、男の子の君を好きになったよ」
世界に色がついた。夢ではないかと疑った。
「え、うそ……」
「本当だよ。男でも女でも関係なく、君だから好きになった」
「そんな……」
「ごめん。気持ち悪かった?」
「違う。もっと、早く言ってよ。僕も、ずっと君が好きだった」
僕はバカだ。自分から告白する勇気も無かったくせに、告白してくれた姫花に責任転嫁をしている。それでも、やっと言えた。
「好きだよ、姫花」
狂っていると言われても、おかしいと言われても、僕らの恋は本物だ。僕は、愛する君となら世界を壊せる。真の意味で、その覚悟が出来た。ポケットからピアッサーを取り出した。
「姫花が開けてくれる?僕の世界を壊して欲しい」
姫花は少年のようにあどけない顔で笑う。
「いいよ」
姫花がすっかり伸びた僕の髪を耳にかけた。触れた姫花の指先は一部の皮膚が硬くなっていて、そういえば僕の想い人はバイオリンを弾いていたんだと思い出した。
「髪、伸びたね」
「君が伸ばせって言ったんじゃないか」
「そうだね。やっぱり、それくらいの長さの方が似合うよ。目、つぶって」
言われるがままに目をつぶると、バチンと体感では花火よりも大きな音が体中に響いた。
「どう……?」
「頭くらくらする。姫花に噛まれたみたいだ」
「何それ」
笑われてしまった。穴がふさがらないようにファーストピアスをはめて、いよいよだと教室を出ようとしたとき、姫花に止められた。
「左手出して」
僕は言われるがままに手を差し出す。すると、姫花が僕の薬指にビーズの指輪をはめた。
「好きな子に指輪はめるのって、男の夢っしょ?」
「もっと早く両想いだって分かってたら僕だって用意したのに」
姫花が作ってくれた指輪は僕の薬指には少し大きかった。このままだと抜けてしまいそうである。
「あれ、おかしいな。この間こっそり栄介の指輪のサイズチェックしてたのに。作ってる途中でずれたのかな」
「ごめん」
僕が悪いというわけではないが、申し訳ない気持ちになり謝罪した。
「そうだよー、栄介細いんだもん。ちゃんとご飯食べてる?」
「食べてるよ。失敬だな」
「あはは、ごめんごめん。とりあえず、今は人差し指にでもつけててよ。それで、いつか再会するときにはこの指輪が薬指にフィットするくらいビッグな男になってくれたまえ」
「ビッグってそういうことじゃないだろ」
軽口を叩いたが、その間もずっと姫花の手は僕の手に触れていて、心臓が壊れそうだった。指輪は人差し指にはぴったりはまった。
「さて、行こうか」
「夏場にジャケットは暑いねえ。早くクーラーきいてる校舎に入りたいよ」
無邪気に笑う姫花が眩しい。
「私服で学校入るの、緊張するね」
「完全な校則違反だからな」
登校禁止の日に、先生の目を盗んで私服で教室に入る。人生で一番背徳的だった。僕達が出会った三年A組の教室は今日の説明会では使われない。
「涼しいね。生き返るよ」
リラックスした内容とは裏腹に、緊張した声で姫花が言った。
「栄介、ボク今から変なこと言うけど、受け止めてくれる?」
「今更だろ」
世界を壊すだなんて、僕達は最初から正気じゃない。正気じゃない僕は、正気じゃない君を愛している。でも、それが間違いだなんて思わない。間違っていないと信じているから、僕達は世界を壊すんだ。
「ボクは男の子になりたい。それはずっと変わらない。女の子扱いされるのはもう嫌なんだ」
幾度となく聞いてきた姫花の心の叫び。知ってるよ。だから、好きだと言わずに僕は君を見送るんだ。
「そんなボクが男の子に恋をしたっていったらおかしいと思う?」
頭が真っ白になった。
「ボクは一人の男の子として、男の子の君を好きになったよ」
世界に色がついた。夢ではないかと疑った。
「え、うそ……」
「本当だよ。男でも女でも関係なく、君だから好きになった」
「そんな……」
「ごめん。気持ち悪かった?」
「違う。もっと、早く言ってよ。僕も、ずっと君が好きだった」
僕はバカだ。自分から告白する勇気も無かったくせに、告白してくれた姫花に責任転嫁をしている。それでも、やっと言えた。
「好きだよ、姫花」
狂っていると言われても、おかしいと言われても、僕らの恋は本物だ。僕は、愛する君となら世界を壊せる。真の意味で、その覚悟が出来た。ポケットからピアッサーを取り出した。
「姫花が開けてくれる?僕の世界を壊して欲しい」
姫花は少年のようにあどけない顔で笑う。
「いいよ」
姫花がすっかり伸びた僕の髪を耳にかけた。触れた姫花の指先は一部の皮膚が硬くなっていて、そういえば僕の想い人はバイオリンを弾いていたんだと思い出した。
「髪、伸びたね」
「君が伸ばせって言ったんじゃないか」
「そうだね。やっぱり、それくらいの長さの方が似合うよ。目、つぶって」
言われるがままに目をつぶると、バチンと体感では花火よりも大きな音が体中に響いた。
「どう……?」
「頭くらくらする。姫花に噛まれたみたいだ」
「何それ」
笑われてしまった。穴がふさがらないようにファーストピアスをはめて、いよいよだと教室を出ようとしたとき、姫花に止められた。
「左手出して」
僕は言われるがままに手を差し出す。すると、姫花が僕の薬指にビーズの指輪をはめた。
「好きな子に指輪はめるのって、男の夢っしょ?」
「もっと早く両想いだって分かってたら僕だって用意したのに」
姫花が作ってくれた指輪は僕の薬指には少し大きかった。このままだと抜けてしまいそうである。
「あれ、おかしいな。この間こっそり栄介の指輪のサイズチェックしてたのに。作ってる途中でずれたのかな」
「ごめん」
僕が悪いというわけではないが、申し訳ない気持ちになり謝罪した。
「そうだよー、栄介細いんだもん。ちゃんとご飯食べてる?」
「食べてるよ。失敬だな」
「あはは、ごめんごめん。とりあえず、今は人差し指にでもつけててよ。それで、いつか再会するときにはこの指輪が薬指にフィットするくらいビッグな男になってくれたまえ」
「ビッグってそういうことじゃないだろ」
軽口を叩いたが、その間もずっと姫花の手は僕の手に触れていて、心臓が壊れそうだった。指輪は人差し指にはぴったりはまった。
「さて、行こうか」