12月10日午後4時30分、テレビのニュースがコンサートホールを映した。新古典主義建築様式で建てられた青く荘厳なそれは、夜の雪の中たたずんでいた。

「珍しいのね。あなたが真面目なニュース番組を見るなんて。きっと今日はタヒチでも雪が降るわ」

 母は、相変わらず失礼なジョークを飛ばす。これはこれで困った物だけれど、この10年で母との関係はだいぶ良くなった気がする。

「失礼だなあ。僕だってニュースくらい見るよ」

「あらあら、それは失礼しました。コンサートホール?ということは彼女さんでも出ているのかしら?」

 母が言っている「彼女」とはだいぶ前に別れた。親に何でも話すような年、小学生や中学生の頃に恋愛をしてこなかったこともあり、親と今更恋の話をするのは気恥ずかしい。それでも、付き合っている人がいるのかと数年前に聞かれたとき、嘘をつくのも気が引けたので正直にいると答えた。母は僕が、その時の恋人とまだ付き合っていると思っている。

「そんなんじゃないよ」

 あの子はあの後、誰かと恋をしたりしたのだろうか?いや、知らないままの方がいいのかもしれない。きっとその想い人に嫉妬してしまうから。

 10年経っても、遠く離れた北欧のコンサートホールで晴れ舞台に立つ君を一目見たいと思うくらいには愛していた。君のことだけは生涯忘れない。あの夏の初恋だけは。