※これは2月9日に追加した、君の声編「結婚式」〜「■異動」の間の話です
春香がケアマネとして4月から正式に働くことになっていた年の2月9日……
珍しくその日は春香も明美も僕も揃って休みだったので、話の流れで家庭用ゲーム機のカラオケソフトがあるという春香の家で明美の彼氏と旦那込みでカラオケパーティーをすることになった。
春香は「思い出の場所に行きたい日だから」と最後まで違う日にしようとしていたが……結局、強引な明美に押しきられてそう決まった。
2月9日の当日、なんとなく緊張している僕とは対称的に、フレンドリーな明美の彼の浩介は……
出会ってほぼ3分で旦那と気が合ったようで、早速お酒を酌み交わして意気投合していた。
「孝次くん歌上手いね〜」
「いいや〜それ程でも」
盛り上がる二人から大分離れた場所で、僕はずっと気になっていた事を春香に聞いてみる事にした。
「それはそうと今日、本当はどこに行こうとしてたんだよ。お、思い出の場所とか言ってただろ?」
「…………実は、毎年ある場所とある場所にお礼参りに行ってるの」
「へ〜神社巡りか何かか?」
「違うよ。高校の時、ある人がある物をくれて頑張れって応援してくれた場所と……」
「ある人に貰った物のおかげで大切な事に気付いて、もう一度頑張ろうと思えた場所」
「何だそれ?……てか何で今日?」
「それは……二人に言いたかったのに言えなかった言葉を伝えたかった日だからかな? でももう卒業しなきゃだよね」
「卒業???」
(ボソッ)
「まさかその場所の前にある式場で結婚式を挙げる事になるとは思わなかったし……ホームドアもできたから同じような事をする人もいないだろうし」
「え? 何か言った?」
「……なんでもない」
そう言うと彼女はカーテンを開けて空を見上げながら、温度差で曇った窓ガラスの一部に文字を書き始めた。
それは何かの暗号のようで……
書きながら落ちていく雫で読みにくくなっていたが、平仮名ばかりの不自然な文字はこう書かれていた。
おちこんだひも
めげずにいよう
であえたことが
とてもすてきな
うまれたキセキ
「何だコレ? ポエム?」
「アハハ、そう思うよね〜さあ問題です! 一体何を伝えたかったんでしょうか?」
「……は? い、いきなりワケわかんね〜よ」
「だ、だよね〜」
本当は分かっていた……
けど必死にごまかした。
彼女の心の奥にいる誰かに嫉妬のような感情が浮かんだから……
昔から春香と同じ推理漫画が好きで、暗号が得意だからすぐにピンと来た。
彼女が今日、本当は誰かに伝えたかったであろう言葉も……その意味も……
彼女は僕の顔を見ながら何かに気付いたようで……
だから、これ以上悟られないように慌てて目を反らした。
すると、彼女は僕が好きだと前に話したサクラというキャラクターが出てくるアニメの映画の曲を歌った。
サビに「空を見上げて」というフレーズが出てくる『明日への希望』という曲を……
~~~~~~~~~~
『明日への希望』
空を見上げて 踏み出していこう
これから まだまだ見えない
遥か 道を探しに行く
1、
まだ眠い いつもの変わらない朝
いつの頃からか 分からないけど
君の言う くだらない一言だけで
特別な瞬間に なっていたんだ
泣いて笑ってけんかして また向きあって
つまらない自分が嫌になるけど
何気ない日常が当たり前じゃないこと
失って初めて気付くんじゃ遅いから
素直な気持ちを 伝えるだけで
こんなにもほら 笑顔が溢れていくから
昨日とは違う 変わらない明日へ
僕が今できる事 毎日探して
ほんの少しずつ 一つずつやっていこう
2、
何もかも どうせと諦めた頃
偶然君の隣になったよ
うつむくしかできない弱虫にただ
笑いかけてくれて嬉しかった
これから先は別々の道 行くけど
君にもらった笑顔 忘れないから
迷う人を 導いていく星のように
ずっと変わらないって 覚えてて欲しいんだ
空を見上げて 踏み出すだけで
こんなにもほら 世界が変わっていくから
未来が不安で 落ち込む時も
君や誰かが 笑顔になる事探して
僕にしかできない事があるって信じてみるよ
空を見上げて 微笑むだけで
こんなにもほら 世界が繋がっていくから
いつかはきっと 辿り着くはず
これから まだまだ見えない
僕にしかできない
誰かの幸せに続く道 探しに行こう
どんな時でも 諦めなければ
こんなにもほら 未来が繋がっていくから
空を見上げて 自分を信じて
これから まだまだ知らない
想い僕らの未来
僕しか見えない
明日への希望 探しに行こう……
~~~~~~~~~~
1時間程飲みながらカラオケをして本当に楽しかったが……
次の曲を入れようとしていた彼女の手が、なぜか突然止まった。
「どした? 入れないならリモコン貸して?」
「は、はい…………」
そう言って渡そうとする彼女の手には僅かな震えがあり、青い顔をしているのに気付いてしまった。
(こいつ、もしかして……アレになったとか?)
昔からそういうのに気付くタイプなので、すぐにピンと来た。
(さっきから小刻みに震えてるけど寒いのか?)
(あ……旦那の方を見たぞ。でも一番遠い所で明美の彼氏と泥酔してるから……あ、諦めた……分かりやすいな)
(しかめっ面してお腹押さえてるけどトイレに行こうとしないって事は違うのか? でも逆に立てない位痛いとか? 寒いと余計痛いらしいし……)
試しに「なんかこの部屋暑くね?」とパーカーを脱いで春香のそばに置いてみた。
すかさず「ごめん、これ借りていい? 私、寒くて……」とパーカーを掴んで震える春香。
(やっぱりな……)
「そろそろ帰ろうぜ〜飽きた」
「え? 悠希まだほとんど歌ってないじゃん! まだ飲み足りないし……」
「また今度でいいじゃん、帰ろうぜ〜」
「え……帰っちゃうの? じゃあパーカー返す」
「別に……また明日でいいんじゃね?」
次の日の仕事終わり……
「昨日はパーカー貸してくれて本当にありがとね」
「別に……あの後お腹痛いの大丈夫だったか?」
「え? あっ大丈夫大丈夫〜えっと、冷たいモノ飲み過ぎちゃって……それで……」
「どうせアレだろ?」
「へ? な、何を言ってるのかなぁ?」
とぼけて宙を見だした彼女が今の発言のキモさに気付く前に話題を変えた。
「それにしても旦那、全然気付いてなかったよな〜お前に関心なさ過ぎっていうか魅力ないんじゃね?」
「うるさいなっ言われなくても分かってるよっ」
「そんな調子じゃ当分子供もできそうにないな〜まあ、4月からは正式にケアマネで当分無理だけどな」
「そ、そうだよね……でもいつか、もしも子供が生まれたら、優しいって漢字が入る名前にしたいんだ〜悠希くんは?」
「な、なんで俺に聞くんだよ……だ、旦那に聞けよ」
動揺し過ぎて思わず赤面してしまった。
「え? 小学校の頃、子供の名前何にするトークとかで考えたことない?」
「へ? あ、あ、そういえばあるわ〜」
「何て名前?」
「……純粋の純……昔、悠希じゃなかったら母さんがつけたがってた名前だから……」
「お母さん大好きなんだね」
「違う……好きじゃない」
「素直になりなよ〜」
彼女がいたずらっぽく笑った瞬間、何かがフラッシュバックした。
「ち、違う……」
「ほんと素直じゃないよね〜小学校とかでも好きな子いじめてたタイプでしょ」
「うるさいっ」
「ね〜悠希くんの初恋ってどんな子だった? 私はね〜小学校の時に鳥小屋から助けてくれた男の子で……」
「そんなの興味ね〜し、どうでもいいし早く帰れ!」
「教えてくれたら帰るよ〜小学何年生の時?」
「…………もっと前」
「幼稚園の時? もしかして担任の先生とか?」
「……違う……もっと前」
「……って3〜4歳? よく記憶あったね」
「三つ子の魂百までって言うだろうが」
「で、どんな子? 教えてくれるまで帰らないよ〜」
「帰れ」
「帰らないっ」
「帰れよ!」
「帰りません!(泣)」
「ウザいなほんと…………お前みたいなお節介なやつだよ」
「へ〜お節介……お前みたいな?」
「やべ」
「ひどい……私のことお節介だと思ってたんだ」
「え?」
「もういいっ! しばらく悠希くんのこと日記に書いてあげないからっ!」
「え?……逆に普段、何て書いてんだよ」
日記の内容が気になったが、その日、新たな秘密が一つできた。
初恋のお姉さんに似てるかも……
なんて一瞬でも思ったことは、
絶対あいつに秘密……だな。
春香がケアマネとして4月から正式に働くことになっていた年の2月9日……
珍しくその日は春香も明美も僕も揃って休みだったので、話の流れで家庭用ゲーム機のカラオケソフトがあるという春香の家で明美の彼氏と旦那込みでカラオケパーティーをすることになった。
春香は「思い出の場所に行きたい日だから」と最後まで違う日にしようとしていたが……結局、強引な明美に押しきられてそう決まった。
2月9日の当日、なんとなく緊張している僕とは対称的に、フレンドリーな明美の彼の浩介は……
出会ってほぼ3分で旦那と気が合ったようで、早速お酒を酌み交わして意気投合していた。
「孝次くん歌上手いね〜」
「いいや〜それ程でも」
盛り上がる二人から大分離れた場所で、僕はずっと気になっていた事を春香に聞いてみる事にした。
「それはそうと今日、本当はどこに行こうとしてたんだよ。お、思い出の場所とか言ってただろ?」
「…………実は、毎年ある場所とある場所にお礼参りに行ってるの」
「へ〜神社巡りか何かか?」
「違うよ。高校の時、ある人がある物をくれて頑張れって応援してくれた場所と……」
「ある人に貰った物のおかげで大切な事に気付いて、もう一度頑張ろうと思えた場所」
「何だそれ?……てか何で今日?」
「それは……二人に言いたかったのに言えなかった言葉を伝えたかった日だからかな? でももう卒業しなきゃだよね」
「卒業???」
(ボソッ)
「まさかその場所の前にある式場で結婚式を挙げる事になるとは思わなかったし……ホームドアもできたから同じような事をする人もいないだろうし」
「え? 何か言った?」
「……なんでもない」
そう言うと彼女はカーテンを開けて空を見上げながら、温度差で曇った窓ガラスの一部に文字を書き始めた。
それは何かの暗号のようで……
書きながら落ちていく雫で読みにくくなっていたが、平仮名ばかりの不自然な文字はこう書かれていた。
おちこんだひも
めげずにいよう
であえたことが
とてもすてきな
うまれたキセキ
「何だコレ? ポエム?」
「アハハ、そう思うよね〜さあ問題です! 一体何を伝えたかったんでしょうか?」
「……は? い、いきなりワケわかんね〜よ」
「だ、だよね〜」
本当は分かっていた……
けど必死にごまかした。
彼女の心の奥にいる誰かに嫉妬のような感情が浮かんだから……
昔から春香と同じ推理漫画が好きで、暗号が得意だからすぐにピンと来た。
彼女が今日、本当は誰かに伝えたかったであろう言葉も……その意味も……
彼女は僕の顔を見ながら何かに気付いたようで……
だから、これ以上悟られないように慌てて目を反らした。
すると、彼女は僕が好きだと前に話したサクラというキャラクターが出てくるアニメの映画の曲を歌った。
サビに「空を見上げて」というフレーズが出てくる『明日への希望』という曲を……
~~~~~~~~~~
『明日への希望』
空を見上げて 踏み出していこう
これから まだまだ見えない
遥か 道を探しに行く
1、
まだ眠い いつもの変わらない朝
いつの頃からか 分からないけど
君の言う くだらない一言だけで
特別な瞬間に なっていたんだ
泣いて笑ってけんかして また向きあって
つまらない自分が嫌になるけど
何気ない日常が当たり前じゃないこと
失って初めて気付くんじゃ遅いから
素直な気持ちを 伝えるだけで
こんなにもほら 笑顔が溢れていくから
昨日とは違う 変わらない明日へ
僕が今できる事 毎日探して
ほんの少しずつ 一つずつやっていこう
2、
何もかも どうせと諦めた頃
偶然君の隣になったよ
うつむくしかできない弱虫にただ
笑いかけてくれて嬉しかった
これから先は別々の道 行くけど
君にもらった笑顔 忘れないから
迷う人を 導いていく星のように
ずっと変わらないって 覚えてて欲しいんだ
空を見上げて 踏み出すだけで
こんなにもほら 世界が変わっていくから
未来が不安で 落ち込む時も
君や誰かが 笑顔になる事探して
僕にしかできない事があるって信じてみるよ
空を見上げて 微笑むだけで
こんなにもほら 世界が繋がっていくから
いつかはきっと 辿り着くはず
これから まだまだ見えない
僕にしかできない
誰かの幸せに続く道 探しに行こう
どんな時でも 諦めなければ
こんなにもほら 未来が繋がっていくから
空を見上げて 自分を信じて
これから まだまだ知らない
想い僕らの未来
僕しか見えない
明日への希望 探しに行こう……
~~~~~~~~~~
1時間程飲みながらカラオケをして本当に楽しかったが……
次の曲を入れようとしていた彼女の手が、なぜか突然止まった。
「どした? 入れないならリモコン貸して?」
「は、はい…………」
そう言って渡そうとする彼女の手には僅かな震えがあり、青い顔をしているのに気付いてしまった。
(こいつ、もしかして……アレになったとか?)
昔からそういうのに気付くタイプなので、すぐにピンと来た。
(さっきから小刻みに震えてるけど寒いのか?)
(あ……旦那の方を見たぞ。でも一番遠い所で明美の彼氏と泥酔してるから……あ、諦めた……分かりやすいな)
(しかめっ面してお腹押さえてるけどトイレに行こうとしないって事は違うのか? でも逆に立てない位痛いとか? 寒いと余計痛いらしいし……)
試しに「なんかこの部屋暑くね?」とパーカーを脱いで春香のそばに置いてみた。
すかさず「ごめん、これ借りていい? 私、寒くて……」とパーカーを掴んで震える春香。
(やっぱりな……)
「そろそろ帰ろうぜ〜飽きた」
「え? 悠希まだほとんど歌ってないじゃん! まだ飲み足りないし……」
「また今度でいいじゃん、帰ろうぜ〜」
「え……帰っちゃうの? じゃあパーカー返す」
「別に……また明日でいいんじゃね?」
次の日の仕事終わり……
「昨日はパーカー貸してくれて本当にありがとね」
「別に……あの後お腹痛いの大丈夫だったか?」
「え? あっ大丈夫大丈夫〜えっと、冷たいモノ飲み過ぎちゃって……それで……」
「どうせアレだろ?」
「へ? な、何を言ってるのかなぁ?」
とぼけて宙を見だした彼女が今の発言のキモさに気付く前に話題を変えた。
「それにしても旦那、全然気付いてなかったよな〜お前に関心なさ過ぎっていうか魅力ないんじゃね?」
「うるさいなっ言われなくても分かってるよっ」
「そんな調子じゃ当分子供もできそうにないな〜まあ、4月からは正式にケアマネで当分無理だけどな」
「そ、そうだよね……でもいつか、もしも子供が生まれたら、優しいって漢字が入る名前にしたいんだ〜悠希くんは?」
「な、なんで俺に聞くんだよ……だ、旦那に聞けよ」
動揺し過ぎて思わず赤面してしまった。
「え? 小学校の頃、子供の名前何にするトークとかで考えたことない?」
「へ? あ、あ、そういえばあるわ〜」
「何て名前?」
「……純粋の純……昔、悠希じゃなかったら母さんがつけたがってた名前だから……」
「お母さん大好きなんだね」
「違う……好きじゃない」
「素直になりなよ〜」
彼女がいたずらっぽく笑った瞬間、何かがフラッシュバックした。
「ち、違う……」
「ほんと素直じゃないよね〜小学校とかでも好きな子いじめてたタイプでしょ」
「うるさいっ」
「ね〜悠希くんの初恋ってどんな子だった? 私はね〜小学校の時に鳥小屋から助けてくれた男の子で……」
「そんなの興味ね〜し、どうでもいいし早く帰れ!」
「教えてくれたら帰るよ〜小学何年生の時?」
「…………もっと前」
「幼稚園の時? もしかして担任の先生とか?」
「……違う……もっと前」
「……って3〜4歳? よく記憶あったね」
「三つ子の魂百までって言うだろうが」
「で、どんな子? 教えてくれるまで帰らないよ〜」
「帰れ」
「帰らないっ」
「帰れよ!」
「帰りません!(泣)」
「ウザいなほんと…………お前みたいなお節介なやつだよ」
「へ〜お節介……お前みたいな?」
「やべ」
「ひどい……私のことお節介だと思ってたんだ」
「え?」
「もういいっ! しばらく悠希くんのこと日記に書いてあげないからっ!」
「え?……逆に普段、何て書いてんだよ」
日記の内容が気になったが、その日、新たな秘密が一つできた。
初恋のお姉さんに似てるかも……
なんて一瞬でも思ったことは、
絶対あいつに秘密……だな。

