それからは模索し続ける日々が続いた。ひと月足らずで完璧なAIボットなんてできるわけがない。そんな事はわかってる。僕が求めているものを完成させるには圧倒的に時間が足りない。その絶望感に、何度も何度も打ちひしがれそうになった。

「最初からカンペキなんて期待してないから安心してよ。信じてるから。キミなら最終的にはリセを復活させてくれるって!」

 その言葉は僕を救った。そして一度は球体に戻してしまったAIボットのグラフィックは、再びリセの姿に近づいていった。ライブだけに絞れば、「その日」が訪れる前に完成させることができると思う。それ以外の部分は、その後に作り上げていけばいいのだ。コレまでの彼女の言動やその時の脳波データさえあれば、いつの日か雨夜星リセを再生させることができる。彼女にアドバイスされるまで、どうしてこんな簡単なことに気づけなかったのか? 本当に、僕はリセに助けられてばかりだ。最後の最後まで、僕は迷惑をかけ続けるのか。

「だーかーら! 迷惑なんかじゃ全然ないんだからね!うじうじしてる暇があったら、このデータ登録しちゃってよ」

 彼女は僕に発光する球体を手渡した。この中にライブ中の彼女の脳波の変動やそのときに発生したイメージのデータなどが入っている。AIボットを雨夜星リセたらしめるための貴重な教師データだ。
 あの日以来、僕は彼女はずっと一緒にいた。ライブやその他の仕事の時は片時も彼女の横を離れなかった。アトリエに戻ってきたら、AIボットの制作に取り掛かる。その様子をリセはずっと眺めていたし、僕が行き詰まった時は発想を切り替えるアドバイスをくれた。疲れたら、LDRから受け取る情報を一部カットして睡眠モードに入るが、そのときもログオフはせず、アトリエの中で眠っていた。そして翌朝に、彼女が小突かれて目をさますのだ。

「僕もキミと同じ、あのベッドを持っていればな……」

 朝食のサンドイッチを頬張るリセを見ながら言った。リセが食事をしている時、現実世界の姫堂美沙は、栄養剤と水分の点滴が行われているのだそうだ。僕は一旦ログオフして向こうで食事を取らなければいけない。その数十分の時間も、今の僕には惜しいのに……。

「何言ってるの。こんなの使う必要がない人は使わなくていいんだよ」

 苦笑しながらリセは言う。

「キミが、こっちの世界だけで生きたいって思ってるのは知ってるけどさ、アタシからしたら贅沢な考え方だよ。もっと向こうの世界のこと、大事にしなよ」
「……考えておく」

 向こうの世界で生きることをついぞ許されなかったリセにそう言われると、返事のしようがなかった。

 こうしてツアーの日程をこなしつつ、AIボットを作成する日々は一日、また一日と過ぎていく。今思えば、ボットの完成という目的があったからこそ、僕は恐怖に潰されること無くこの日々を過ごせたんだと思う。それがなければ、あの病院の日。僕は何もかもを失ってしまっただろう。そうはならず、ライブ用AIの精度を上げられるまで上げることが出来た。ツアーの日程は九割がたを消化し、3回で最終公演という所まできていた。

 そう、あと一歩。

 本当に、あと一歩だった……。