ふたりのやり取りはぎこちない。それはそうだ、ついさっきまで命がけの戦いをしていたのだから。それよりも、狼王の名前だ。名前がなくては、さすがに不便だ。

「そうだな……フェリスってのはどうだ?」

リュカの背中に軟膏を塗りながら、ふと思い浮かんだ。

「フェリス……フェリスか……」

彼女は胸に手を当てて、じっと考え込んでいるように見えた。

「気に入らないんだったら、リュカみたいに自分で考えてもいいし」

「そうじゃない。私は……私は、フェリスだ……」

フェリスは何かを噛みしめるように、眼を閉じた。

「気に入ってくれたかな」

「この服と、フェリスという名。どちらも、気に入った」

そう言って、フェリスは俺の後ろに回った。

「どうした?」

「傷を負っているな。おそらく戦いの際に、飛び散った氷にやられたのだろう」

自分じゃ気づかなかったけれど、そういえば背中がひりひりする気が、なんとなく。

「あんまり痛くないし、大丈夫じゃないか?」

「いいや、駄目だ。私もナンコウを塗ろう。服を脱げ」

「ありがとう……」

俺は素直に上の服を脱いだ。

フェリスは薬壺から、軟膏を指にたっぷりと取った。

「では塗るぞ」

ミュウをリュカが温め、そのリュカを俺が治療し、その俺をフェリスが治療するという、なんだか変な感じになってしまった。

少しだけ冷たい、細い指が、滑らかに背を這う。