「お礼なんていいよ。ただ……気に入ってくれたら、嬉しいかな」

私は服に袖を通した。私の作った氷塊を変化させて作られたものだ。体毛の少ない肌に、実によく馴染んだ。

「ああ、気に入った」

自分の素直さが、少し怖くなる。不思議なことだ。

ソラが作ったものを身に纏うことで、何か私の根本的なものが変えられてしまう気がする。

それよりももっと不思議なのが――その感情がけして不愉快ではないということだった。





*  *  *





「狼王フェンリル、貴様は……」

「そう呼ばれるのは好きじゃない」

「む」

俺たちは家に帰り、リュカをベッドにうつ伏せに寝かせていた。治療のためだ。リュカはミュウに手から熱波を当てて温めている。

「リュカ! アッタカイ! キモチイイ!」

狼王の火傷は、人間の姿に変わったときに、不思議と消えていた。おそらく火傷は状態異常であって、それは誓約の首輪による強化でリセットされたのだろう。ダメージは蓄積されているだろうけれど、身体の表面には――うっかりじっくり見てしまったが、傷はないようだった。

「フェンリルと呼ばれるのは好きじゃない」

俺の横に立っている、狼王が言った。

「いつの間にか、誰かから押しつけられていたものだ」

「私だってそうよ。だから、ソラからはリュカと呼んでもらっているわ」

「リュカ」

「う……うん」