狙うは、柔らかい腹。

融けない刃は、深々と食い破るに違いない。

狼王は、全身のバネを引き絞って、木上の氷塊を蹴り抜いた――はずだった。



――!?



狼王の脚は、氷塊に深く沈みこんだ。あり得ない〈柔らかい氷〉。氷塊に潜んでいたのは――。

「カカッタナ!」

ミュウだ。

狼王の吹雪に耐えきったミュウだったのだ。



――ウオオオオオオオオオオオオオオン!!



脚に絡みついて離れないミュウを、狼王は吹雪で凍りつかせようとする。しかしミュウは、相変わらずの柔らかい身体を保っていた。

「なんで凍らないのかって、思ってるだろ」

俺は戦場に一歩足を踏み入れた。

「こいつは今朝、大量の塩を食って来た。塩水の塊なんだよ!」

大量の塩を体内に取り込んだ、ミュウの凝固点はマイナス五十五度。

更に竜王リュカの炎も、ミュウを凍らせないために一役買っていた。狼王に気づかれない程度に、ひそかに熱波を送っていたのだ。



 ――ウオオオオオオオオオオオオオオン!!



狼王は、立体的な高速戦闘に、絶対の自信を持っていた。だからこそ、一点の隙を突かれれば、ペースは容易く崩れる。必死でミュウと格闘する狼王――その瞬間こそが、俺たちの、傷を受け続けた竜王リュカの、戦術の結実だった。