狼王は吹雪による視覚遮断が無効化されたことを悟ると、即座に冷気を戦場の〝周囲〟へとまき散らし始めた。たちまち木々が凍り付き、氷塊となって戦場を取り囲む。眼前に広がるのは、狼王の縄張りを象徴するような、氷で造られた闘技場だ。

「奴のステージを作りやがった……」

いくら狼王の姿が見えていても、そのスピードに対応できなければ意味がない。狼王は氷塊を鋭い爪で蹴り、円を描くように疾駆した。



――ビキッ!



氷塊が爆ぜたのは、狼王の鋭い蹴りによるものだ。狼王はそのスピードをもって、咥えた氷剣で竜王リュカの背中を斬り抜けた。切断された鱗が数枚飛び散り、背中に赤い血が滲む。致命傷ではないが、何度も受けていては危険な攻撃だ。

それが再度、再度、再度、再度――狼王は縦横無尽に剣を振るう。背中の傷が増えていく。どうしても人間態のリュカが頭に浮かび、胸がはち切れそうになる。

しかしこれは戦いだ――勝つための戦いだ。

竜王リュカは長い首に斬りかかった刃を、硬い鱗で弾く。首はあらゆる生物の弱点であるが故に、鱗は非常に分厚くできている。しかしそれでも、弱点がないわけではなかった。それは、先日も狙われた腹部だ。竜王リュカは、首への衝撃で大きく仰け反る。

けして見逃してもらえる隙ではない。

必ず、必ず、狙われる弱点を、竜王リュカは――とうとう晒した。

狼王の瞳孔が、ギンと開く。