戦場に風が吹き、狼王の毛並みをなびかせた。やがてその風が強くなり、鋭い冷気を宿し、狼王の周囲に吹き荒れる。身体の動きを鈍らせ、視界を覆う吹雪だ。狼王の微かな影が、その中を疾駆する。竜王リュカはそれを狙う――そうなれば昨日の二の舞だ。

「リュカ、作戦通りだ!」



――グルルルルルルルルオオオオオオオ!!



竜王リュカは狼王に構わず、周囲に炎をまき散らした。そうして吹雪は蒸気へと変わる。それでは視界を塞がれていることに変わりはない。しかし、そこで第二の手を使う。

巨大な翼だ。

もちろん飛ぶためではない。竜王リュカは翼を羽ばたかせることで、視界を奪う蒸気を払ったのだ。これでは狼王に唯一優位に立てる可能性のある空中戦は捨てたことになる――しかし、この森で戦いと狩りを繰り返すうちに、俺は学んでいた。

――本当の優位とは、自分が状況を選択できるということだ。

竜王リュカは、確かに優位な空中戦という選択肢を捨てた。しかしそれによって、戦いの可能性、広がりは絞られる。その状況を選んだのは俺たちだ。勝ちの目があるからこその選択だった。こういった考え方は、環境を利用して戦う狼王に対しては、かなり有効なはずだ。

ともかく、竜王リュカの炎と翼によって、視界を奪うという狼王の戦法は封じられた。

しかし奴は馬鹿じゃない。