リュカは自分の膝をじっと見つめて、語り始めた。

「さっきは不覚を取ったけど……次は絶対負けない。私にも意地ってものがあるんだから」

「戦いを見てたけど、とんでもない強さだったな」

「蒼氷狼フェンリル……正直あいつの実力は認めるしかない。冷気を操って、何もかもを凍りつかせる。視界を塞ぐ吹雪。あらゆるものを斬り裂く氷の刃……それだけじゃなくて、爪、素早さ、そういう肉体的強さも持ってる」

「ロウオウ、ツヨイ、コワイ!」

「ちょっと悔しいけど……戦いの手数じゃ、私の上をいってるわ」

「その力で暴れまくってるってわけか」

「そういうわけじゃないのよ」

リュカは金色の瞳を俺に向けた。

「あいつは基本的に、他者にはまったく興味を示さない。ただ、縄張りを侵されることをひどく嫌ってるの」

なるほど、この森を出るためには、狼王の縄張りだけは避けなければいけないらしい。幸い、リュカが仲間になったおかげで、彼女の縄張りは通行可能になっている。触らぬ神に祟りなしだ。道は確保できるはず。

しかし、ここで疑問が生じる。

「ということは、リュカが狼王の縄張りに侵入したのか?」

理性を尊ぶ竜王が、そんな過ちを犯すとは考え難いのだが、何か事情があるのかもしれない。

「もちろん違うわ。けれども私たちは、争わざるを得なかった」

「縄張りに変化があったとか」