透明な赤い首輪が、宙に現れた。俺はそれを、そっと掴んで、竜王に差し出した。

「もし仲間になるなら……これで俺と《不断の契り》を交わすなら、命を助けよう。お前との約束も守ろう。だが、断るなら……」

俺はそこで、少し言い淀んだ。竜王の誠実な言葉を思い出してしまったからだ。

「お前との約束は守るよ……でも、それだけだ」

巨大なまぶたが閉じ、体躯が大きく揺らいだ。何事かと思わずあと退る。しかし、くっくっくっ、と声が響いて、やっとわかった。

竜王は、笑っていたのだ。

「仲間にならなければ、今すぐ殺して森を焼き払う、くらいのことは言いなさい……私を脅すならね……」

「じゃあ、仲間になってくれるのか!?」

「死に瀕したこの身に……情けをかけるあなただからこそよ……それを忘れない限り……私はあなたの力になるわ……」

理性と寛容さ、か。やはり王と呼ばれるだけの存在なのだ。

俺は頷いて、竜王に近づく。誓約の首輪を鱗にかざすと、光と共に吸い込まれていった。

「ああ……」

誓約の光は、竜王の体躯に眩く広がった。

氷の刃に抉られた傷が、少しずつふさがっていく。めくれ上がった鱗が、音もなく閉じるのが見える。強化によってHPが上昇したのだ。ダメージは残っているけれども、竜王は瀕死の状態から脱した。竜王の深い息が、小枝を焼く炎を揺らす。竜王はその鋭い目を、俺に向けた。