どうやら懐の鱗は、防御力が他の部位に比べて劣るらしい。氷の刃の中程までが竜王の懐に突き刺さった。竜王は身体をよじって、続く氷の刃を背中で受け止める。分厚い鱗――しかしそこは先ほど氷の刃を防いだ部位だ。表面は硬く凍り、ひび割れ始めていた。



――グルルルルルルルルオオオオオオオ!!



鱗が割れて弾け飛び、赤い鮮血が噴き出す。竜王は再び翼を広げて距離を取ろうとした。動作が幾分緩慢に見えるのは、狼王の放つ冷気の影響だろうか。

「デバフってやつか……ん?」

そこで更に異変が起こる。竜王の片側の翼が広がらないのだ。

「なるほど、頭の回る奴だ……」

狼王の攻撃は無数の氷の刃だけではなかった。吹雪を利用して、翼の関節を凍りつかせたのだ。竜王の体躯が大きく傾ぐ――その隙を狼王は逃さなかった。



――ウオオオオオオオオオオオオオオン!!



狼王の咆哮と共に空間が凝結し、巨大な氷の刃となった。ギン! と狼王の眼が光ったかと思うと、その巨大な刃が、今まさに炎を吐かんとしていた竜王に襲い掛かる。



――ズドォッ!!



竜王の肉体に食い込んだ氷の刃は血液を凍りつかせ、霜を吹いた鱗が割れて飛び散る。

耳を塞ぎたくなるような絶叫が響き渡り、炎の鞭をのたうたせながら、竜王の巨大な首が大地に倒れた。

「………………」

狼王は黙って背を向け、のっしのっしと森の奥へ消えて行った。