怖ろしい魔物の住処である悪魔の森。ここでの生活にもようやく慣れてきた。意外にも豊富な食材、そして錬金術を駆使して洞窟内に建てた住居。生活はそれなりに快適なのだが――。
「どうしたの、体から音がしてるわ」
俺が肩をバキボキ鳴らしていると、リュカが心配そうに手を添えてくれた。
「最近、あちこち痛くてさ」
「負傷したのか? ソラ」
背中をさすってくれるのは、フェリスだ。
「心配ありがとう……どうも寝床が良くないらしい」
いま使っているのは、草の繊維だけで造った固いマットレス。彼女たちは魔物だから肩こりなんかないと思うけれど、人間はそうはいかない。
「ベッド、造ってみるか」
ミラクルスライムのミュウがくにゅっと身体を捻る。
「ベッド、モウ、アル」
「まあ見ててくれよ」
こういうときこそ錬金術の出番だ。鉄のインゴットを、スキル《切削》で加工し、柔らかい弾力をもった、へたれない良質なバネを造った。綿に近い植物から《精錬》で脂質などの不純物を洗い落とし、植物繊維と絡めてベッドフォームができた。固さを変えた数枚のベッドフォームにバネを組み込み、数種類の魔物の毛皮で包む。
「よし、完成だ!」
疲れた身体をベッドに預けた瞬間――。
「ああ……」
まるで地の底まで沈み込むような柔らかさが俺を包んだ。意識がゆらゆらと溶け出ていく。
痛かった腰が優しく受け止められて、両腕が柔らかいものに挟まれている。ふとももにはむっちりとした感触。まったくなんて素晴らしいベッド――。
「……ん?」
明らかにベッドの性能を超えている。目を開くと、いつの間にか俺を挟んでリュカとフェリスが眠っていた。慌てて身体を起こそうとすると、リュカが俺の首に腕を巻きつけて寝床に押し戻した。
「だめ……もうちょっとこのまま……」
耳たぶが痺れるような甘い声とともに、肢体が押しつけられる。
「フェリスも! ほら起きて!」
俺の足の上で、ふとももがすりすりと上下に動く。
「睡眠は……重要……」
ぎゅうっと二の腕にしがみついてきた。ふたりの胸が、俺の腕に合わせてかたちを変える。寝息が、耳と首筋をくすぐる。
「ちょ、ふたりとも……」
俺は混乱しつつも、なんとか脱出方法を考えていると、
――カァン!! カンカンカァン!!
「なんだ!? どうした!?」
台所を見ると、ミュウが中華鍋をおたまで叩きまくっていた。
「ソラ! エッチナコト! カンガエテル!」
「不可抗力だ!」
体は休まったが、気は休まりそうにない。