「そうだな。たとえば、私から見れば、君は偉大な英雄であり……聞き分けの悪い、可愛い弟子でもあり……」
近い近い近い近い。ヴァージニアの声は、もうほとんど囁き声とかわらない。
「大切な仲間でもあり……そして……」
俺の耳に、ヴァージニアがふっと、冷たい息を吹きかける。
「ひゃいいッ!」
まるで耳たぶに氷を当てられたような冷たさに、変な声が出た。その声を聞きつけてか、
「ソラ、やっと目を覚ましたのね!」
「心配していたんだぞ、リュカが。私は信じていた」
「お兄様、よくぞご無事で! 聞いてくださいまし、わたくし、かのネコさんたちに慕われていることを逆手に取る妙案を思いつきましてよ。彼らをエイガに出演させるのですわ。名付けて『錬金術師VSネコ』‼ サメよりも恐ろしい猛獣に観客も絶叫間違いなしですわ」
「ソラ~、風が気持ちいいよ~。今日はみんな、外でご飯食べよ~」
「……アリ蜜は、疲労回復に効くらしい。……ソラのぶん、もらってきた……」
「みゅ! ソラ、ハンショク、シテル!」
どうやらみなさん、おそろいで。俺ですか? 半裸で、シーツ一枚で、お隣には同じような状態のヴァージニアさんがいらっしゃいますね。詰みかな。
「ちょちょちょ、ちょっとあなたたち、なんて恰好してるのよ⁉」
「なにって、繫殖だろう。ソラは私と先にデートした。キスもしようとした」
「ちょっとお待ちくださいましフェリスさん。デートについては伺っておりましたが、キスについて初耳ですわ。私が大図書館で調べたところによると、人類はキスを行うことで発汗、体温の上昇に加えて、欲情を促すことで、任意に発情期へと移行することが……」
「今日は外、暖かいからね~。服も脱いじゃうよね~。私も脱ぐね~」
「……ふつうは、脱がない。待って、ホエル、私はいい……私は……あっ、あー……」
「ソラ、コドモ、イツウマレル?」
「生まれないよ?」
相変わらず騒がしい仲間たちに、ヴァージニアも肩をすくめて笑っている。
「やれやれ、静かに寝かせてもくれないのか、君たちは」
それはこっちのセリフだ―― と言いたいところだが。そんなことを言ったが最後、皮肉が何十倍にもなって返ってくることは明白だ。なにせ彼女は古の英雄であり、俺の頼れる師匠であり、大切な仲間であり――偏屈な、大魔術師なのだから。
ヴァージニアと俺との距離は、とても遠いようで、
少しだけ、近い。