目を覚ますと、木板の粗末な天井が目に入った。カラカラという、風車の回る音も聞こえる。どうやらあの後、すぐに気を失って、屋敷の一室に運び込まれたらしい。まあ無理もない。一週間ほとんど不眠不休で作業を続けたのだ。いったいどれほど眠り続けていたのかさえもわからない。できることなら、もう少し寝ていたいところだが。
「おはよう、私の英雄」
「うん、おは……おはァ⁉」
粗末な藁に敷かれたシーツ。一人分であろうそれに、俺とヴァージニアは仲良く並んで横になっていた。慌てて起き上がろうとする俺を、ヴァージニアが制した。
「まだ寝ていたまえ。一週間ぶっ続けだったんだ。私ももう、足腰が立たない」
それはなんだか別の意味に聞こえるが、かくいう俺もまだ疲労が色濃く残っている。ここは大人しく横になっていることにしよう。眠れるかどうかは別として。
ヴァージニアと並んで、ぼんやりと天井を見つめる。外からは笑い合うネコたちの声と、風の音が聞こえてくる。ふと、ヴァージニアが俺に話しかけてきた。
「さて、ここでひとつ命題を提示しよう。君はこの剣の谷に生きるネコ族と、人類の混血種に、ワーキャットなるものが存在していることは知っているかね」
相変わらず本題までが長そうな問いかけだ。
「実物は見たことないけど、知識としては」
「よろしい。魔物の中には、ドラゴニュートやウェアウルフといった、人類との混血種が多く存在する。つまり原則的に、人魔の混血は可能なのだ」
いったい何が言いたいのかさっぱりわからない。
「それはまあ、よく聞く話ではあるけど」
「では人の身から魔に転じた者はどうだろうか。例えるなら、夜魔や、アンデッドだ」
ヴァージニアの白い腕がすすっと伸びてきたかと思うと、俺の胸元にかかったシーツをぎゅっと掴む。ちょっと待って。あの、ヴァージニアさん、服はどうされましたか? というかいま気づいたけど、俺の服どこいった?
「待ってくれ、質問の意味がわからない」
「では質問を変えよう。私ことヴァージニア・エル=ポワレは、君も知っての通り、古の大魔術師などというたいそうな肩書きをぶら下げている。だがそれは私が持つ、一側面にすぎないことを、君は教えてくれた」
シーツがすすす、とまくられていく。
「では他の側面はどうだろうか。たとえば君の目から見て、私はいったい何者だろうか」
「し、師匠、です」
「他には?」
「仲間……かな」
ヴァージニアの冷たい身体が俺の肩に触れる。耳に、彼女の吐息を感じる。
「……他には?」
他? 他ってなに? 他にもあるってこと? それともこれから『なる』ってこと? もうシーツはほとんど残っていない。