「揉むね~」

「お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あッッッッ‼‼‼‼」

 そしてあっという間に、短いようで長い、一週間が過ぎ、あとは仕上げの工程を残すのみとなった。

「ソラ、これで最後だ」

「ヴァージニア、も、もう手が……上がらな……」

「私が支えてやる。しっかりしたまえ」

 冷たい手が、俺の手を掴む。息がかかるほどの距離で、ヴァージニアが俺の身体を支える。

「そうだ、焦るな。ゆっくりでいい。私に呼吸を合わせるんだ」

「こう、か?」

「そうだ……上手いぞ、ソラ」


 パチッ


 静電気がはじけるような、小さな音とともに。一週間という時間を費やした『風のアラン像』が完成した。さっそく試運転だ。スターターとして最初の魔力を注ぎ込む。


 ヴヴン……


 像に刻み込まれたスキル【春風駘蕩】が、発動する。

 谷のよどんだ空気が、わずかに揺れたかと思うと、次の瞬間。

「風……だ……」

 剣の谷を、一陣の風が駆け抜ける。あたたかく、穏やかな風が、あの花の香りを運んでくる。雲は流れ、漏れた日の光が、谷底を照らす。

「風だ風だ!」

「吹いたーッ!」

ネコたちの歓喜の声とともに、風車たちが一斉に回り始める。まるでこの谷そのものが、息を吹き返したかのように。

「俺たち、やったんだな……」

「ああ、成功だ。お疲れさま」

 風に乗って、アランじいちゃんの笑い声が、聞こえたような気がした。


  *  *  *