「みゅ!」
アランがみゅ、と鳴いた。まさか。
「エルダーリッチ、ゲンキダシテ! ホラ、ボク、アラン!」
思った通り、ミュウの【完全擬態】だ。まあ、見た目はたしかにアランそのものなんだけど……。ミュウも不器用なりに、ヴァージニアを励まそうとしてくれているのだろう。そう思うと、なんだかもう悲しみを通り越して笑えてくる。俺がヴァージニアのほうに目をやると、彼女も同じように、笑いをこらえていた。
「ふっ、デリカシーのないやつだな君は」
「みゅ? デリカシー? ソレ、オイシイ?」
「いや、君には必要のないものだ。ずけずけと踏み込まれるのも、案外悪くない。どこかの誰かさんのようにね」
そう言ってヴァージニアは俺を見る。その節は反省しております。
「じいちゃん⁉」
「ニャぜここに先代族長が⁉」
アランに擬態したミュウを見て、ネコ族たちが騒ぎ始めた。ただただ呆然とする者、涙を流し喜ぶ者もいた。ただ大半は、
「お、おばけだーッ! 出あえ出あえーッ!」
「ついに化けて出やがったニャ、このクソジジイ!」
「さんざんシゴキ倒された恨み、今こそ晴らしちゃりゃあーっ‼」
「みゅ⁉ みゅーっ⁉」
伝説の英雄、剣神とはいったものの、この谷では、やっぱり『じいちゃん』なんだな。そんなネコ族たちの様子を見て、ついに笑いこらえきれなくった俺たちは、ひとしきり腹を抱えて笑った。
* * *
ヴァージニアが本調子を取り戻したところで、ようやく本来の作業に入る。〈魔石〉からのスキル抽出だ。正直、久々にやるので緊張している。しかも絶対に失敗はできない。
「本当に大丈夫ニャのか……?」
「やっぱり、ちょっと心配だニャ」
「大丈夫よ、ソラは世界最強の錬金術師なんだから。安心して見てるといいわ」
リュカたちがフォローしてくれる。おおう、プレッシャーが増していく。俺は覚悟を決めて、アランの〈魔石〉に手をかざした。
《抽出》