スキル連打による全力の面制圧がアランを襲う。だが。
「それもさっき見たぞい」
背後から声がした。俺が視界を塞がれたその一瞬で、回り込んだというのか。背中に激痛が走る。
「ほい二本目」
斬られたと同時にこちらも剣を振り抜くが、アランはとっくに間合いの外で欠伸をしていた。
「なかなか強力なスキルのオンパレードに、魔法も使えるとはたいしたもんじゃ。それに必殺の一撃を二度受けてもまだ立っておる。ステータスもそうとう」
会話の途中で、アランは再び腰を落とし、剣を振り抜く。虚をつかれた俺の防御をかいくぐり、三回目の攻撃が肩に食い込む。このネコ、口三味線も使うのか。
「高いと見えるの。じゃが、それだけじゃあ、いかん」
翻弄されている。それも一方的に。そしてなにより。
「信じられないですよ……そんな手札で」
「気づいたようじゃの。わしが使うとるスキルは『ひとつだけ』じゃ」
【春風駘蕩】
風が吹き抜けると同時に、花弁が舞う。剣神アランが用いているスキルはひとつ。風を操るこのスキル、たったひとつだけだ。戦いにおける応用力、経験の差。それだけで、この世界でも屈指と思しき俺の能力を、完封している。
(これが英雄、剣神アランか……)
アランは老ネコらしからぬ、若々しい笑みを浮かべ、俺に剣を向ける。
「これが『オレ』とオマエの違いだ」
「アランと……俺の……」
鍛え抜かれ、練り上げられた、戦術の差。剣の谷のネコたちが、なぜレベル差をものともせず、武装した護送兵団を手玉に取れたのかの答えが、ここにあった。
アランは、今度はお前の番だと言わんばかりに、剣を構えて挑発する。
「かかってこいよ、男の子だろう」
そう言われて、悔しくないはずがない。だが俺の手の内はもう、完全にバレている。すべてを見切ったアランに対し、切れるカードがない。いや、もともとこの戦いは模擬戦なんだ、得られるものがあっただけでも儲けものだ。ここでやめてもプラスにはなる。これ以上、仲間たちの前で恥ずかしい格好をさらして、痛い思いをしなくてもいいじゃないか。俺の甘い心が、降参しろと音をあげる。だが、そのとき。
「やれやれ、まったく仕方のない英雄だ」
ヴァージニアの声が、俺の耳に届いた。