無限に咲き誇る白い花。満天の夜空に月は一つ。剣は二振り。俺は弾む心臓をなんとか抑えつつ、剣神アランと向かい合った。
「若人。気づいとると思うが、ここはわしの領域じゃ。いくら真剣で斬られても怪我はせんから安心せい。ばちこり痛いがの」
斬られても、ね。『斬り合う』じゃないあたりが、剣神としての矜持といったところか。
「それを聞いて安心しました。また老猫虐待とか言われたらたまんないですから。俺、好きなんですよ、ネコ」
「ぬかしおる」
先に仕掛けたのはアランだった。低く腰を落とし、老体とは思えない速さで、迫りくる。ならば俺は、間合いをはかってカウンターを狙うまでだ。
【豪力】【阿修羅】‼
閃いたミスリルの剣は、剣神アランの身体をとらえた、かに見えた。
「それはさっき見せてもらったもんね」
アランは最小限の動きで俺の間合いから逃れる。ヒゲ一本分もないほどの紙一重。一ミリでも間合いを間違えれば、剣先はアランの胸を裂いていた。さっきの幻影たちよりも、一枚も二枚もうわ手だ。当然のように、追撃の《サンダー》もかわされる。
「まずは一本じゃな」
下段に構えられた剣が、俺の脇腹を狙う。そう易々とはやられまいと、俺も剣を構えて斬撃を防ごうとした。そのとき。
「…………⁉」
ふわり、と。花の香りがした。白い花弁が舞い上がり、俺の視界を覆う。お互いに振れば届くこの距離で、俺はアランの姿を見失った。直後、脇腹に鈍痛が走る。
「年季が違うんじゃ、年季が」
斬られた、こんなにもあっさりと。
「いってえ……‼」
「そりゃ痛かろう。まあまだ序の口じゃて」
息つく暇もなく、次の攻撃が俺に迫る。俺がアランを視界に捉えると同時に、花弁が目に入ったが、もう出し惜しむような状況じゃない。
【獄炎焦熱】
【絶対零度】
【破壊光線】